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  06


どんっ!と鈍い爆発音。
爆弾を中心に膨れ上がったどす黒い球体が瞬く間に広がっていく中を、一条の光が奔る。やがて光も、そして乱闘場中のカメラも球体に全て飲み込まれ、映像はぶつりと途絶えた。



上がりそうになった悲鳴を、子リンはなんとか胸の内で押し留める。此れ程血の気が引いたのは、嘗て魔王に彼女を奪われたとき以来だ、と、意識的に思考をずらして無理矢理心を落ち着かせて。
それでも蒼白な顔色は隠せない彼を、マルスがそっと支えた。添えた手は気遣わしげに触れるだけだけれど、反対の拳は痛いほど握り締められている。
フォックスが縋るような、ファルコが睨むような視線をカヌレへと向けて――彼らばかりではない、管理室の全ての者が真実の一端を知る彼女を見つめて、言葉を待つ。

瞬き一つ分だけ瞳を揺らして、カヌレが重い口を開いた。


「…ワープスターならば、亜空が収束する前に飛びぬけることが出来たでしょう。あれは次元に捕らわれないものだから」


カヌレの言葉に少しだけ空気が緩んだ。マルスが僅かに息を吐いて、再び口を引き結ぶ。
ワープスターならば、と言うのなら、カービィとゼルダは無事だろう。では、あの場にまだ残っていた観客たちは。

容易く想像がつく事態に皆口を噤む中、いち早く意識を切り替えたのはファルコンだった。


「ここで黙り込んでいても仕方がない、状況を整理しよう。説明して貰えるかな?」
「私が知る限り。何から話したらいいかしら」
「ではまず。亜空、と言うのは?」


カヌレは詠い上げるように問いに答えた。
曰く、亜空とは創造神――マスターハンドの理によって形作られるべきイメージ界において、その理の範疇に属さない所謂イレギュラーの空間である、と。

元より亜空はどんな世界にも暫時生まれ出ずるものであり、カヌレの元の世界のように、多数の次元が並行して存在する世界ならば生まれた所で然したる問題ではない。
しかしイメージ界は存在の根拠を外の世界に持ち、様々な存在を融合させて成り立っている。当然、外の世界はそれぞれ異なる理を持つので、性質を精査し、溶け合わないものを削らなければ世界を保つことは出来ない。
そして今回の亜空を作りだした存在は、精査の役割を持つ破壊神――クレイジーハンドによって、削除されるべきと判断された者だった。


「けれど、彼女はそれを成し遂げられなかった」
「何故…?」
「…分からないわ。私は理を知る故に原因を理解しているけれど、何故そうなったのかまでは把握出来ていないの」


カヌレに分かることは世界の理、クレイジーハンドの願い、そして二柱の神のどちらもが異世界に助けを求めざるを得ない状況にいるということ。
それはとりも直さず、敵が神をも打ち破る力を持つということである。


「クレイジーハンドは、この世界に映された理ではイレギュラーを滅せないことを悟って、別の理を異界に望んだ。
 本来創造神が使うべき力を無理矢理使った所為でしょう、術式は錯綜していて、どんな存在が喚ばれたかまでは分からないけれど」


マスターハンドの理で敵を打ち破れない以上、新たに喚ばれた者の中に可能性を見出す他は無い。
それでさえ、創造物が神に等しきものに挑もうと言うのだから、奇跡を望むようなものだ。


「一筋縄では、行かなそうだね」
「少なくとも、既に喚ばれていた戦士も、新たに招かれた戦士も、全員が揃わなければお話にもならないでしょう」



眉を顰めたマルスの言葉に頷いて、カヌレはスマッシュブラザーズにいくつかの提案を持ちかけた。


ひとつは、手分けして既存のファイターを集めること。残された時間の中で戦力を集めるには、固まって行動していてはおそらく間に合わない。これは一も二も無く採用された。
もうひとつ、亜空の発生範囲を調べる為の装置をスターフォックスに託した。それはカヌレの理ではなく、召喚された際に合流することが出来た異界の者の持ち物で、カヌレには扱いきれないからだ。
受け取ったフォックスは、メカニックに相談しないと何とも言えないと前置きしつつ、依頼を了承する。
そして、最後のひとつ。


「貴方たちの理ならば、もう一手が打てるかも知れない。賭けになるけれど、協力して貰えないかしら」





差し出された手を、躊躇うことなく子リンは掴んだ。











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