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  05


現場も管理室も混乱する中で、最も落ち着いているファイターは意外にもカービィであった。

カービィは黒雲を纏う戦艦の正体を知っていた。その持ち主である騎士も、騎士が唯一忠誠を捧げている大王のことも知っていた。
プププランドに起こる大事件の半分くらいはその大王のせいで、そのうちのまた半分くらいは、何か悪いことがあったのを自分が何とかしようとして失敗したせいだということもよく知っていた。
そして騎士のほうは、本当に悪いことがあったときでなければ大王の悪だくみに手をかしたりしないのだということも。

彼らは本当の本当に事態が悪くならなければ、プププランドの住民に悪いことがあったことすら教えてはくれない。もちろん、カービィにも。
だからカービィはすぐ、また何か悪いことがあったのを二人が自分たちだけで解決しようとしたのだ、と考えた。

黙っていられたことには目一杯膨らんで抗議したいが、襲撃されたと知れば二人もきっと話してくれる。信頼が故に疑問を切って捨て、カービィは対峙する敵を見据える。

ボスパックンを見るのは初めてではあったが、土管から出てくるパックンフラワーはカービィも見慣れた敵である。炎を吐かない分動き回れるだけで、大した相手ではない。
問題は、囚われた姫君たち。ボスパックンが暴れる度に姫君を閉じ込めた檻も無茶苦茶に振り回されてしまう。それがカービィに攻撃を躊躇わせていた。



囚われた側のゼルダもまた冷静であった。
檻そのものが己の魔法を封じていること、何より時間が残されていない事を正確に把握し、僅かに使うことの出来る魔力を広げ封印の綻びを探す。爆弾が爆発する前に敵を倒し脱出するには、自分たちが囚われていては間に合わない。
幸いにも、それはすぐに見つかった。


「カービィ!檻の取っ手を!」


取っ手と檻を繋ぐ金具。ゼルダの位置からは見えないが、おそらくそこに魔法陣か媒介が組み込まれている筈だ。
端的なゼルダの要請にカービィはすぐさま応え、ハンマーで留め金を粉砕する。

瞬間、留め金に込められた膨大な魔力が術式という指針を失って荒れ狂い、溜め込まれたエネルギーが逃げ場を求めた結果、檻を持つボスパックンをも巻き込んで盛大に爆発した!

爆風に乗って難を逃れたカービィや、咄嗟に転移を成功させたゼルダに対して、まともに巻き込まれたのは反対側の檻に閉じ込められていたピーチで。本来ならば空中を渡れる彼女も封印が解かれないままでは為す術もなく、檻ごと地面へと叩きつけられてしまった。
程なく着地し、慌てて駆け寄ろうとしたカービィとゼルダに、掛けられたのは高笑いの声。


「何だァ、ゴムまりみてェなチビと女だけか!」


声とともに飛び降りて来たのは小太りの男だった。服装がマリオに似ているとカービィは思い、マリオの世界を元とするボスパックンを喚んだのは其奴だとゼルダは判じた。
二人の感想は正しい。確かに男――ワリオはマリオと世界を同じくする者で、襲撃の半分はワリオの指示によるものだった。しかし、ワリオを知る者はその場にピーチしか居らず、相手を量るには二人には情報が足りない。
相手の性質が読めない以上、手に持つブラスター砲を予断なく構えられては、カービィとゼルダも迎撃の態勢を取るよりなかった。

せめて、この男が見た目の印象に反してずる賢く合理的な性格だとだけでも知っていれば、結果は変わっていたかもしれない。
牽制していたブラスターの矛先は、やっとのことで檻から抜け出したピーチに気付くとすぐさま差し替えられた。はっと気付いた彼女に、放たれたエネルギー弾を避ける術はない。黒い矢印の形をしたそれがピーチをまともに貫いて――




ごとり、と、フィギュアとなったピーチがフィールドに落ちる。




自分たちをフィギュアへと変換するシステムの瓦解を察知していたゼルダは、驚愕に目を見開いた。いかにフィギュアの命とはいえ、組まれたシステムの外で変換されることなど、本来ならばあり得ない。
ゼルダに生まれた一瞬の隙を、ワリオは見逃すことなく動き、


「女や小動物をいたぶる趣味はねェが、ピーチ姫なら貰っといても悪くねェな」


言うが早いか、ピーチのフィギュアをひっつかみ逃走へ転じた。


「っ、待ちなさい!」


我に返ったゼルダがワリオを追って駆け出し、状況が掴めないながらもカービィもその後を追う。走り抜ける途中、ちらりと見てしまった鉄球の爆弾。




カウントは、残り五秒にまで減っていた。







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