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  02


光と共にフィギュアから解き放たれたマリオとカービィが、ゴングと同時に駆け出す。
先手必勝と繰り出されたマリオの拳を飛び上がることで避けたカービィは、そのまま自身をストーンの能力でもって高質化させる。危なげもなくそれを避けたマリオに予測済みとばかり、能力を解いたカービィが素早く蹴りを繰り出した。
基本的に体術を駆使するマリオに対し、カービィの能力は本人の性格も相俟って酷くトリッキーだ。本来カービィのコピー能力はひとつを短い期間保持することしか出来ないのだが、マスターハンドの計らいでいくつかの能力をコピーしなくても使えるようになり、その性質は助長されている。

もちろん、『飲み込んだ相手の能力を写し取る』コピー能力自体は健在であり。


「いっただっきまーすっ!」


距離を詰めたカービィが目をぎらりと光らせ、呑気な掛け声とともに思いっきり息を――否、マリオを吸い込むべく吸引を開始する。
迎え撃とうとパンチを繰り出す寸前だったマリオは為す術なく大きく開けられた口へと吸いこまれ、哀れ星へと姿を変えた。吹き飛んだ訳ではない。能力を写し取られ用済みと放り出されたのだ。
すぐさま体制を立て直し振り向いたマリオが見たのは、己と同じ赤い帽子を被ったカービィで。

あ、これは駄目だ。

コーヒーを啜りながらぼんやりと試合を見ていたフォックスの心の声が奇しくも頬を膨らませた客席の姫君と重なったとき、予想通りの光景がモニターに映し出された。要するに、炎で焦がされたマリオが宙を舞い、結界へと弾き飛ばされたのだ。
同時に接触した結界が機能を発揮し、マリオをフィギュアへと変換、ステージ中央へと送還する。正常完了を伝えるレポートウィンドウが画面端へ連なってゆき。




その中の一つが、レッドアラートを告げた。




管理室で異常が確認されるよりも先にカービィがマリオのフィギュアを復活させていたのは、僥倖だったと言えよう。直後、ステージを取り囲む結界は音も無く瓦解したのだから。
警告は何者かがスタジアムを囲むように展開された対物理障壁に外側から接触した為のもので、反発する障壁を無理矢理に押し切ってフィールドへと侵入した襲撃者によって、結界そのものが構成システムごと崩壊したのだ。
フィギュアへ変換するシステムも、フィギュアから再変換するシステムも然り。マリオがフィギュアのままであれば、すぐには元に戻れなかったかもしれない。それほどの緊急事態だった。

暗く落とされた影に空を見上げたマリオやカービィ、客席の観客や姫君たちが見た、そして管理室のモニターに割り込んだワイプウィンドウに映し出されたのは、空を駆る黒い戦艦。

その大きさに、纏う禍々しい黒雲に、或いは船首に着けられた不気味な仮面に誰もがぎょっとする中、呑気な声がステージから、ひとつ。


「あれー?ハルバード??」


声の主は、当然であるかな、カービィのものだった。
状況の飲み込めぬ中問題の戦艦の名を言い当てたカービィに、マリオがあれは何だと問い詰めるよりも早く、戦艦からは黒い粒子が投下された。それらは地に落ちると寄り集まって人型を為す。



「あれは、何?」
「分かりません。けれど、あまり良いものでないことは確かです」


巫女に近い性質を持つゼルダは黒い粒子から生まれた人型に言い知れぬ不吉さを感じた。嘗てハイラルの王城でかの魔王と対峙したときのような、ひょっとしたらそれを上回るかもしれない、強い警鐘。
観客たちが我先にと逃げ出すのを意に介さず、ゼルダはフロルの風でもってステージへと飛んだ。ピーチもパラソルを広げ後を追う。


「マリオ、状況の解明は後程。今はあれらを退けなければ」
「ああ。とにかく客席に入れないようにしないと!」
「見たことないけど美味しいかな〜?」
「あらカービィ、知らないものを食べては駄目よ」


緊迫した状況に似合わぬ――常と同じ会話を交わす桃色に、マリオとゼルダは苦笑して、向かい来る人型を打ち倒すべく構えた。




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