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  01


世界がおかしくなっている。



ある国ではそれまであった山や川が無くなり、昨日まで見慣れた景色であったところがまったく知らない風景になったと聞いた。
また、ある地域では時間によって変化することの無い筈のフィギュアが年を取ったり、あるいはまったく違った姿へと変貌しているとも言う。

その影響はスマブラファイター達とて例外ではなく。

さらりと揺れる長い髪を掻き上げて、ゼルダは深い溜息を吐いた。
美しい栗色の髪はゼルダ生来のものではない。つい二日程前、急に変化したのだ。元の金髪に戻る様子は今のところない。けれども、ゼルダは元より容姿を気にするような性質ではなく、溜息の原因は別の者――リンクにある。
容姿が変化して以来、ゼルダはリンクと顔を合わせていなかった。少々パラドックスを伴うが未来の彼である子リンには昨日のうちに顔を合わせ、劇的な変化など無かったことを確認している。


「やはり気になるのでしょうか」


結い上げた髪束を手に取って、また溜息をひとつ。頑なに己と顔を合わせるのを拒む理由はゼルダには分からなかったが、同じ世界から来た彼にこうも余所余所しくされては寂しいものがある。

容姿のせいだと言うならば、早く元に戻って欲しいものです。

最後にもう一度溜息を零してからゼルダは髪をいじるのを止め、手早く服を整え自室を出た。今日の乱闘は一番にマリオとカービィ、その次がゼルダとピーチの組み合わせだ。
ゼルダ達の容姿が変化したことを受けマスターハンドとクレイジーハンドは原因究明のため屋敷を留守にしている。それでも乱闘は予定通り開催されるし、彼らが居ないからこそきっちりと行わなければ、とゼルダは心に決めていた。


そうしていればそのうちに元の生活に戻ると、信じていた。






「じゃあ行ってくるよ」
「気を付けてね、マリオ」


転送装置へと消えるマリオをまるで新婚夫婦の様にピーチが見送る。
見ているだけで胸焼けしそうないつもの光景を半笑いで見届けたフォックスは、モニターへと視線を戻した。

マスターハンド達が居ない今、乱闘用のフィールドへの転送装置はフォックスかファルコンくらいにしか扱えない。機械文明を元の世界に持つファイターは極端に少ない為だ。
況して高次の機械文明を持つ世界の生まれであってもファルコなどはとかく飛ばない機械に興味が無いし、宇宙概念を持つ世界ともなれば星によって程度に大きな差が出る。
もっとも、カービィならいざ知らず、同じ世界の他惑星生まれであるサムスもまた、機械を扱える数少ない人材であるのだが。当の本人が個人的事情で屋敷を留守にしているのでは仕方がない。
そしてまた、ファルコンは責任感が故に雑用を引き受けてしまうような生易しい性格とは程遠く、つまるところ、雑務を行う人間はフォックスくらいしか残っていないのが現状である。

お決まりのコードを打ち込んだ転送装置は滞りなくマリオとカービィを乱闘用のステージへと出現させた。
乱闘用のステージは特殊な結界で囲まれている。この結界は上下左右全方向に張り巡らされており、物理的な怪我を防ぐ他、触れた者をフィギュアへと変換してステージ中央へ再転送する役目も持っているのだ。
既定の回数この結界まで相手を吹き飛ばす、あるいは一定量のダメージを与えフィギュアへと変換させるのが『大乱闘』のルールだ。

本人たちは真剣勝負、けれども致命傷を与えることは決してない。マスターハンドの趣向と興業としての利を十分に満たすシステム。

システムの各々がグリーンシグナルを返していることを確認して、フォックスはともかく安堵の息を吐いた。
第二試合のファイターである姫君達は連れ立って乱闘見物に出かけて行って、今管理室には彼ひとり。今回のステージは闘技場を模したもので、普段映像配信しかしない大乱闘の様子を現地で観覧出来る為現地へ“飛んだ”のだ。
乱闘では制限されているゼルダの魔法は、その実強大な力を秘めていて、ステージ外において数十kmの距離など無きに等しい。結界の中でさえなければ転送装置を使う必要さえなく、つまり回収する必要もない。

制御も魔法でやってくれたら楽なのに。

それもそれで怖いか、とフォックスはひとりごちて、コンソールを数度弾くと乱闘会場をスクリーンに映し出させた。



ステージで、火蓋が切って落とされる。




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