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  12


『悪い予感がする』


彼を己の世界から飛び出させたのは、王の、ただそれだけの言葉であった。

彼の王は、いくらか我儘であり短慮でもあり、凡そ賢王とは言えぬ人だが、懐に入れた者たちを護ろうとすることにかけては人一倍の、優しい王である。
王には危機を予知する力があった。誰かに言えば回避が難しくなるのだと、彼にも余程でなければ語らぬ予知である。故にただの一言で、彼は緊急事態であると判断を下し、彼らの星を飛び出したのだ。

彼は星を渡る自慢の戦艦に王を乗せ、一路スマッシュブラザーズの元へ向かっていた。其の地に居る知己、その力を借りんが為に。


艦は、その過程で襲撃された。


暗黒を纏う賊共が忽然と甲板に現れ、船員や王の臣下を次々にフィギュアへと変えていった。彼は王を逃がし、その為に敵の攻撃を受け…記憶は一度そこで途切れている。
次に目が覚めたとき、彼はひとり森の中で倒れていた。彼の自慢の戦艦は、彼方上空で、黒雲を撒き散らしながら飛び去ろうとしていた。

彼は小さな翼でもって必死に後を追った。引き離されて尚航跡を頼りに追い続け、幾度かの爆撃を歯噛みして見送った後――爆撃の現場にマルスを見付けたのだった。







あまりにも血が上りすぎていた。これではカービィを叱れないな、と心内で自嘲する。


賊の一味に違いないと打ち下ろした剣。しかし打ち合ってみれば、その白銀は余りにも清廉で。違和に怒気が薄れかけたのも束の間、打ち合う二人の元へ襲いかかった賊共の人型。
互いに迫り来た敵を切り捨て、そこで漸く、双方が勘違いに気付いたのだった。


「急く余り申し訳ないことをした。貴殿を彼奴らの仲間などと」
「それはこちらも同じこと、気にされる必要はありません。それよりも、やらなければならないことは他にあります」


辺りに蔓延る残りの敵も切り伏せて、二人は手早く互いの情報を精査した。
即ち、『亜空軍』を名乗る、艦を襲った者たちと交戦する立場であることの確認。此処に至る経緯。そして、


「首謀者と思しき者を先程見ました。まだ近くに居る筈です」
「ならばハルバードの航跡を追おう。いずれ乗り込むだろうからな」


方針を素早く定め、二人は空を見上げた。上空にはまだ、航跡たる黒雲が残っている。幸いにも見失うほど離れてはいないようだし、艦を良く知る持ち主が居るのだ、十分に追えるだろう。二人は頷き合う。



「…そうだ、重要なことを。僕はマルス、今はスマッシュブラザーズに籍を置いています。貴方は…」
「私は、メタナイト」


その名にマルスは目を見張り、次いで得心の笑みを浮かべる。ばらばらに散って、見当もつかなかった点、それがやっとひとつ繋がったことを喜びながら。


「では、プププランド随一にして無二の騎士とは、貴方でしたか。共に征けるならば心強い」



その言葉に、今度はメタナイトが仮面の奥の瞳を瞬かせ、そして期待に応えるように翼を広げたのだった。





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