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  11


初めに異変が起きたのは何だったか。仲間たちを集めるべく動き回りながら、マルスは考える。

スマッシュブラザーズの中で容姿に顕著な変化が出たのはゼルダだったが、世界全体で見れば異変はいくつも報告されていた。変化、消失、出現。トキワの森の様子を窺いに行ったポケモンたちの最後の連絡は、ひと月も前のことではないか。
異変は自分たちが思うよりずっと前から始まっていたのだろう。既に音信不通なのは彼らばかりではなくなっている。クッパやガノンドロフ、ゲームウォッチ、それに、ロイ。


実家より火急の知らせを受け、ロイが郷里へ帰ったのはつい三日前だった。
到着の知らせも来ないのを、領主の家の大事ならば、と気に留めずに居たが、いざ連絡を取ろうとすれば彼の所在すら掴めなくて。


「僕らは、余りにも鈍感過ぎた」


内心の焦りを噛み殺し、マルスは落ち着けるよう息を吐く。

仲間を集めるにも、己の足だけが頼りでは心許ない。マルスは一度自分の世界へと帰り、馬なり馬車なりを用立て、手始めにロイの元へと向かうつもりだった。
マルスとロイの世界は同郷と呼べるほどに存在が近く、実際世界の端と端が融合する形でこの世界へと映されている。彼の世界へ渡るのは容易だ。
屋敷の転送装置はマルスには到底扱えぬものだったが、唯一己の世界にだけは自動で帰れるようになっている。管理室を出てファルコンと別れ、マルスはすぐ様装置に飛び込んだ。景色が歪み、数分と立たずアリティア城の一室へと転送される。

――筈だった。


無骨な機械と煌びやかな王城の混ざり合った景色が、ふつり、唐突に消えた。一瞬の暗闇と僅かな浮遊感。直後、マルスは突如荒野の只中へと投げ出された。
景色に見覚えはない。やっとのこと砦を見付け、己か、あるいはロイの世界だろうと憶測はついたが、記された名はやはり見覚えのないもので。

まんまと二の轍を踏まされた。
もしかしたらロイも同じ状況に追いやられて、それで連絡が取れないのでは。

不甲斐なさに肩を落としたくなるのを堪え、マルスは砦中から情報を洗い出すことに専念する。砦は随分前に放棄されたものらしく、地図さえ容易には見つけられない。だが、自分まで行方不明になり戦力を減らす訳には。
幾部屋めかの砂埃に塗れた扉を開け放ち、然れど何の手がかりも得られず本格的に肩を落としかけたその時。廊下から続く物見台の先に、何かが光るのをマルスは見つけた。

荒野の向こうに生まれた一瞬の閃光。瞬く間に大きな爆発となったそれは、光、と言うには鈍い、暗色の球体。見誤る筈もない。闘技場を襲った『亜空』が、そこにあった。


マルスは弾かれたように駆け出した。ほんの数メートルの距離を走る間に、亜空はどんどんと膨れ上がる。その向こう、溢れだす人型の群れの奥に確かに捉えたのは、襲撃犯たる緑の影だ。


「逃がすものか!」


マルスの意志に呼応するかの如く、抜き放った神剣ファルシオンが光を放つ。光の剣を携えて、マルスは荒野へ向かうべく踵を返した。





次々生まれる敵を薙ぎ払い、マルスは難無く球体へと辿り着く。
球体は、闘技場全体を包み込んだことを思えば些か小さいようだったが、それ以上伸展する様子は見受けられない。いざというときに退避出来るよう距離を保ちながら、マルスはそれを注意深く観察する。

次の瞬間。マルスはその場を飛び退き、上方へ剣を構えた。鋭い殺気が彼を捉えていた。振りかぶった剣が、強烈な斬撃を受け止める。

明らかにこれまでの敵とは毛色が違うことを、マルスはその一撃で理解した。その太刀筋は、意志無き人型には真似出来ない確かなものだ。油断すれば押し切られかねないそれを、神剣を振るい打ち払う。
身体は小さく、背中には竜を思わせる紫の羽根。振るわれたのは金色の剣。球状をしたその全体を覆う例の戦艦の船首に似た仮面から、襲撃犯の一味であると想像するのは容易い。

だが、何かが引っ掛かる――?



「貴様、何を企んでいる!!」


叫び、飛びかかってきた相手の言葉に疑問を強めながらも、再び金と銀の剣戟はぶつかり合った。







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