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  ゆく年くる年


(行く年)



今年最後の仕事が終わったのが八時過ぎ。
明日は情けで一日休みを貰っているし、折角の大晦日だからとコンビニでビールとつまみを買い込んだその帰り道。
通り道の馬鹿デカい屋敷を覗いてみたのは、単なる気まぐれだったんだけど。


「よお。蕎麦でも食ってくか」


まるで待ち構えていたかのように家主に引きずり込まれ、瞬く間に用意されたのは天ぷらの乗った熱々の蕎麦。
当人はと言えばもう蕎麦自体は食べ終わったらしく、一升瓶を抱き込んで酒を呑み始めた。こいつが自分勝手なのにはいい加減慣れた。俺も伸びる前に蕎麦にありつくことにする。
相変わらず、六の和食は美味い。

俺が来た時からついていたテレビの中では、ミミニャミと神が紅白歌合戦を執り行っていた。いくつかは見覚えのある顔で、六んとこの組の奴も居るようだった。


「六さんは行かないの」
「新年は家で迎えるもんだ」


呑むか、と差し出されたお猪口は有り難く頂くことにする。注がれた酒はひりりと痛い程強かったが、一緒に差し出された烏賊焼きにはよく合った。


「けえは、正月はどうするんだ」
「んー?…寝正月かな」
「雀坊が初詣に行きたいと言っていたんだが」


来るか?と問われて、すっかり酔いも回ったか、いい気分の俺はじゃあ行こうかな、なんて答えてしまって。明日になったら面倒になるに決まっているんだけれど。
こんなのも、年越しだってんなら悪くは無い。





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(来る年)



「Happy new year!」


パンッ、と弾けるクラッカーの音。フォックス達が用意した花火が打ち上げられる音。スネークが持ち込んだ、バクチクと言う小さな火薬の束が爆ぜる音。
思わず顔を顰めそうな音の中で、皆楽しそうに騒いでいる。
元の世界に居た頃は何となしに過ぎ去っていた新年を迎える夜は、この世界にとってはとても大切なものらしい。


「だからって畏まらなくていいんだよ。楽しめばいいだけさ」
「今日だけは夜更かしもOKだしね」


この世界での年越しを何度も経験しているマルスとロイはそう言って、パチパチ弾ける金色の酒が入ったグラスを俺へと渡してきた。真面目な此奴にしては至極珍しい行為だ。


「僕たちは年を取らない。肉体的には、ね」


俺の視線にマルスは苦笑して、自身もグラスを手に取りながらそうごちた。
隣でロイは酒ではない透明のグラスを手に、こちらは満面の笑みを浮かべている。


「でも時間は過ぎて、本当は年を取ってる。記憶では年を取る」
「だから、区切りを大切にしたいんだよ。行事ごとに異様に張り切るのはそのせい」

「そうか。なら俺も楽しもう」


笑顔の二人に頷いて、グラスをかち鳴らした。




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