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  ダブルブッキング


(裏稼業で)



目の前で打ち抜かれた男。飛び散った赤の為に抉れた頭部は彼が即死であることを示していた。


「やってくれるじゃない」


暇つぶしに受けた仕事とはいえ、賞金稼ぎと傭兵が、三人も揃って出し抜かれるなど冗談ではない。標的捕獲の失敗は、寧ろ私たちの過大な負けん気を刺激した。一泡吹かせなければ。
優秀な自称伝説の傭兵は傷と角度からすぐさま射手の潜む場所のあたりを付け、しかし眉を顰めた。


「距離と高さは申し分ないが、な」


視線の示す先にはうらぶれた廃ビルが聳えており、その最上階の窓は確かに狙撃に相応しい位置にある。間に川が無ければ。
私たちにとって何の障害にもならない30メートルほどの川幅も、弾丸にとっては軌道を狂わす魔物だ。それでなお寸分たがわぬ狙撃をして見せた敵はかなりの腕前と見て間違いない。

とは言え、流石に壁を蹴り上げて最上階へと登るのは予想外だったか、件の部屋には銃を解体する痩躯の男がまだ残っていた。猫のような目が真ん丸に見開かれている。


「…お宅さん、人外の方?」
「いいえ?列記とした地球人よ?」
「はは、冗談、」


軽口を叩きながら油断なく私たちを見据え、手早く銃を纏める男。飛び退ろうとすると同時にファルコンが其奴に迫り、
…かけて、炎に阻まれる。
一瞬の業火の後ろから現れたのはガスマスクを付けた少年らしき影。


「ジャック!とにかくエスケープ!」


男が叫ぶが早いか、少年は其奴と銃を詰め込んだ鞄とを担ぐと私たちの眉間と右肩目掛けて正確にナイフを放ち、そのまま反対の窓から飛び降りて、消えた。





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(武器屋で)



「見かけねぇ顔だなァ」


砥ぎに出していた愛刀を受け取りに馴染みの武器屋に顔を出したら、見慣れぬ小僧が店の前に突っ立っていた。
年はリュータたちくらいだろうか、それにしては上背がある。それより何より目を引くのは、その背に背負われた黄金の大剣だ。


「…ああ、初めて来た。道具が揃っていると聞いて、」
「洋剣のも置いてたっけか。まあ、そのデカい剣じゃ本業の砥ぎの方は無理かも知れねぇな」
「いや、折角だがこれには必要ない。神剣なんだ。道具を見に来たのは、連れで」


突然話しかけた俺に物怖じするでもなく返してきた坊主は、些か口下手の様だった。ジャックなんかに比べりゃ随分マシだが。
成程確かに、其奴の身の丈程のその剣は、何者かに護られているとさして鋭くもない俺でも分かる逸品だ。これ程の業物はなかなか見ない。男の言う神も、己のよく知る彼奴ではないのだろう。
そして使い手たる本人も、生半可の者ではない。そうと来れば仕合いたくなるのが男の、否、剣士の性ってもんだ。


「連れを待ってて暇なら、どうだ?一局」


腰に差した、砥いだばかりの愛刀を抜き放ってにやりと笑めば、其奴は数度瞬きをした後薄い笑みを口元に乗せた。


「願ってもないな。アンタは強そうだ」


其奴が大剣を抜き放つと同時、振るわれた二振りの剣が火花を散らした。





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