三寒四温の憂欝
(服が決まらない)
冬の終わりのコート。春らしい薄手のジャケット。華やかなドレスシャツ。少し厚手のスタンドカラー。ブーツ。ローファー。
「おーい、二泊三日にどんだけ荷物持ってくつもりだよー」
私の支度に付き合わされているミスターが、げんなりした声を上げた。
彼の前に積み上げられているのは明日から出かける旅行の為に選んだ服や、靴や、装飾品。もちろん日用品もだが、そちらはミスターに教えられて幾分か減っている。日本の旅館は至れり尽くせり、だ。
とはいえ、服はこれ以上削れないし、もう少し大きなトランクにすべきだろうか。私の考えが伝わったのか、ミスターが本日何度目かの溜息を零した。
「だってミスター、明日は暖かくなるそうですけど、明後日はまた寒いって言うんですよ」
口を尖らせる気分で私がそう言えば、ミスターはがっくり肩を落として呻く。
「薄手で行って、寒くなったら買えばいいだろ。お前金持ちなんだし」
「目的じゃない買い物で時間を潰してしまうなんて、勿体ないです」
せっかくの神様のお誘いの旅行、その上ミスターと一緒に、だなんて。こんなまたとない機会、一分一秒だって楽しまなくちゃ損じゃないですか!
そう言ったらミスターは、勝手にしろとそっぽを向いてしまったんですけれど。
(体調不良の嵐)
「37度5分」
風邪かな、と続けられたマスターの言葉に多分、とため息吐きつつ僕は体温計を睨み付けた。
どおりで上手くPSIが使えないはずだ。大した熱じゃないけど、やっぱり熱があるときはPSIのコントロールが難しい。
「その様子じゃ乱闘は難しそうだね。リュカくん、代わって貰ってもいいかな?」
「あ、はい。大丈夫です」
頷きつつも心配そうなリュカがマスターと出ていくのを見送って、僕も薬を貰って医務室を出た。部屋に戻る前に水を貰ってこないと。
「そういえば、ロイもこの間調子悪いって言ってなかった?」
「僕は熱出なかったから、大したことなかったよ」
ここのところ、寒かったり熱かったり、気温が安定しないせいで体調をみんな崩している。
先週はロイだったし、その前はフォックスだったし。体調崩してないのなんてアイクくらいじゃないかな。
まあ、でも。特にひどいのは。
「マルスも早く良くなるといいんだけど」
苦笑するロイと同じ人物を思い浮かべて、僕はマルスみたいにならないよう薬をちゃんと飲もうと思った。
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