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  春爛漫花の宴


(新旧取り合わせて)



深夜、帰ってみればドアノブに風呂敷包みがぶら下げられてた、なんてのは、実は初めてじゃないんだが、それに花の枝が刺さってるってのは流石に初体験だ。


差出人が明白とはいえ不審物――尤も、これを偽装して、尚且つ俺の部屋の前に仕掛けられる奴が居るってんなら、純粋に感心するけど――一応検めてみれば、枝の他には瓶がひとつ。
毒物って可能性は無いでもないが、爆発物の線は消えたのでさっさと部屋に持ち込み、テーブルに広げてみた。

小振りの瓶に満たされた液体はどうやら薄い蜜色、底に沈んだ実から察するに梅酒だろう。添えられた白い花は六ん家に咲いてる梅の枝か。
一緒に入っていた藁半紙には、何時も通り、達筆すぎて半分くらい解読不能な六の手紙がしたためられていた。深夜労働で動かない頭では文字を拾うのも面倒だ。一瞥して畳み直す。明日にしよう。

六の梅酒は去年も貰った。リカーじゃなくて、もっとちゃんとした焼酎で漬けてあるいかにも酒って感じの奴。あれはあれで美味かった、とはいえ。


「今呑んだら潰れるだろうなあ」


度数の高いこれは少々キツい寝酒になりそうだ。手紙の内容を確認せずに呑むのも不安だし、何より明日も朝のうちから仕事で、呑んだ日にはじーさんに殴り飛ばされるに違いない。

早々瓶の放置を決め、どうやって包んであったかが思い出せない風呂敷は適当に畳んで放り投げる。
枝だけとりあえずコップに避難させて、俺は睡眠を貪るべく布団へ倒れ込んだ。





(同じ名前の贈り物)



ダイニングのテーブルに置かれたガラスの花瓶に、たわわに桃色の花をつけた枝がひとつ。


「何ですか?その、花」
「ハナモモよ」


花瓶に花を挿したピーチ姫が楽しげに笑って答えた。ハナモモ。…ああ、花桃。


「おんなじ名前ですね」
「ええ、それで貰ったの」
「マリオにですか?」


そう問えば、ピーチ姫はふふふ、と意味ありげに笑った。その瞳には、此処には居ない悪友によく似た、悪戯っぽい光が宿っている。
思わず身構えた俺にピーチ姫は一層笑みを深くして。


「クッパよ」
「…え?」
「ああ見えて、一番ロマンチストなの、彼」


あの巨体の亀魔王が花屋でピンクの花を購入している図…嫌にリアルに思い浮かんでしまって、思わず机に突っ伏した。
絶対ありえない取り合わせなのに、妙に似合うのはどういうことだ。必死で笑いを堪える俺の上に、ころころとピーチ姫の声が転がる。楽しそうに、嬉しそうに。


「マリオからは紅茶を貰ったのよ。桃のね。ルイージが今紅茶に合うケーキを焼いてくれてるんだけど、トワちゃんも食べる?」
「いただきます」





(花より団子)



酒を呑み騒ぐ者在り。


「ああー、駆けつけ一杯のビールが美味ぇ!」
「何だ、おっさんいける口か」
「偶には日本酒ってのも悪くないな」


食べるのに夢中な者在り。


「卵焼き美味しい〜!」
「おにぎりって外で食べると何でこんなに美味しいんだろうね」
「桜餅もあるッスよ。関東風と関西風、どっちがいいッスか?」
「両方食べるー!」



「…何でこう、純粋に桜を楽しめないものかな?」
「でも、皆さんとても楽しそうですよ」


入り乱れてわいわいと騒ぐ皆を横目に苦笑を漏らせば、隣で桜を見上げていた伯爵も彼らに視線を向けて、穏やかに笑む。
立ち上がった彼のボリュームのある白い髪が微風に揺れて、彼までもが桜の様だ。


「神様と桜の歌を歌う約束をしているんです。折角だから、マルスさんもご一緒しませんか?」
「…そうだね、折角だから。御呼ばれに与ろうかな」


差し出された手を取って、僕達はくすくす笑い合いながら喧騒へ向かった。





 

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