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  バレンタインを巡る攻防


(色男逃亡中)



色とりどりの包みを手に手に、好きな人を探す女の子なんてどう考えても可愛いものだと思っていたが、半ば目を血走らせながら疾走する姿は実際に見ると鬼気迫るものがあった。
しかも大人数とくれば、気の弱いこいつが逃げたがるのも致し方ないのかもしれない。

何が悲しくてぷるぷる震える野郎なぞ庇わなけりゃいけないのか、とはいえ数少ない普通の友人を無碍にするのも気が引ける訳で。
溜息を飲み下し、俺は手近に居た子に声を掛けた。


「お嬢さん、申し訳ないけど、ここ今から清掃入っちゃうんで」
「あ、すみません。…あのぉ、こっちに男の人走ってきませんでした?」
「…茶色い帽子被った奴かな?それなら向こうの通りの方へ凄い勢いで走ってったけど」


適当な方向を指さすとその子はありがとう!と満面の笑みで走り去って行く。
聞き耳を立てていたのだろう、彼女の周りにいた子達も遅れるものかと駆け出して行くのを確認してから、俺は背後の細路地に声を投げた。


「…で?俺は本当に今から掃除なんだけど、どーすんの」


振り返れば仕事道具の影から顔だけ覗かせた情けない友人の姿。目が若干潤んでいて思わず視線を逸らす。泣くのか、泣くほどのことなのか。


「…終わるまで待っててもいい?」
「………突き当り、仕事用のバンあるから。後ろスモークの」
「ありがとう、ケイ!」


しょーがねーなー、と言わんばかりの態度で言ってやればぱっと顔を明るくする現金なそいつに、キーを放り投げながら、俺はにやりと笑ってやる。


「高くつくぜ?マコト」


そうすりゃ戸惑いもせず、チャーシューメンでいいでしょ?なんて言ってくるから、こいつとつるむのは気楽でいい。





(乙女の戦場)



「全部刻んだらチョコを湯煎に掛けるんだよ。お湯が入っちゃわないように気を付けてね」


分かったわ!と元気に返事をして、ナナちゃんは思い切りよくボウルをかき混ぜた。飛び散るお湯と、刻んだチョコの欠片。
僕は慌てて下のボウルを押さえて叫ぶ。


「慌てなくても大丈夫だよ!ゆっくりしか溶けないし!」
「そうなの?」


とりあえずナナちゃんは止まってくれたみたいで、ほっと溜息。チョコのボウルを覗いてみるけどお湯はほとんど入ってないみたいでよかった。

もう一度、今度はゆっくりかき混ぜてもらって、きれいに溶けたら生クリームを注いでもらう。
混ぜながら入れたほうがきれいに出来るけど、僕は口は出せても手伝っちゃいけないことになってるから、ちょっとずつ入れて。


「そしたらバットに入れてしばらく冷やすよ」
「丸めないの?」
「熱いままじゃ丸まらないし、火傷しちゃうよ」


ナナちゃんはそっかーと言いながらボウルを裏返す勢いで傾けるから若干チョコが飛び散ったけど、味に関わる訳じゃないからそこは見ないふり。
バットを冷蔵庫へ入れたら暫くすることもないからココアを飲みながらちょっと休憩にしよう。

今更だけど、僕男なのにバレンタインチョコ作りなんて手伝ってもいいのかなぁ?



「あのね、リュカ。女の子だったら料理が上手く出来る訳じゃないのよ」


そう言ったナナちゃんの後ろでぼふんっ、と鈍い爆発を起こしたゼルダさんのお鍋を見てしまって、僕は思わず頷いた。




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