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  冬の星空


(下弦の月夜)



夜の生き物は少なからず月の影響を受けている。
最も顕著な部類に入るのは狼男のアッシュで、此奴は月が満ちてから欠け始めるまで人の姿をとることは出来ない。反対にスマイルなどは比較的影響が少なく、精々気配ごと透明になってしまうといったところか。
我ら吸血鬼はと言えば、まあ、若い者ならば浮かされ血を求めることもあるだろうが、千を数える頃には月齢に伴う魔力の高まりも十分コントロール出来る様になる。伊達に夜の支配者を気取ってはいない。

満月に魅せられる気持ちが無い訳ではないが。


「だが私は今宵のような月が好きだな」


そう纏めれば向かいのアッシュは少々首を傾げた。スマイルは我関せず夜食代わりのカナッペをぱくついている。
満月より数日過ぎて、欠けゆく猫の目月は特筆するところもない普通の月だ。百も迎えぬ此奴では、首を傾げるのも無理からぬことかも知れない。
いや、年を経たからと言って風情が解せる訳でも。ちらとスマイルに視線を向ければ、視線の意味を正確に理解してにやりと笑われる。同時に投げ返される意味深な視線は、私の発言までも正確に理解しているからで。
まったく、言わずとも解ると言うのは便利なようで面倒なものだ。閑話休題。

さて、それよりも置いてけぼりの仔狼に答えをくれてやらねば。


「形良いものばかりでは飽いてしまうものだ、百も千も数えればな」


納得した様子で頷くアッシュ。それに、と続ける言葉に笑みを乗せてやれば、照れくさそうに尻尾が揺れた。


「語らう相手も居ないのでは、如何な名月も味気ないだろう?」





(世界を跨ぐ星標)



「三つ並んでる星と、その四隅の星がオリオン。そこから下がっておおいぬ座、上がってこいぬ座」


冷えた空気を防ぐ為毛布に包まって、俺が指差す先を目線で辿るアイク。
いつものごとくマスターの思いつきに振り回され、この極寒の季節に夜営を組まされ、マスターの罠の危険性を鑑みて二人体制を敷いた不寝番。
尽きた話題に、何気なく振った星空の話は意外にも彼の琴線に触れたらしい。


「あんた、本当に何でも知っているな」
「そうでもないさ。俺の世界で、俺が生きていくのに必要だった知識があるだけだ」


まるで感心しきった風のアイクに首をすくめて、スキットルからウォッカを呷る。
緯度が違うのか、見慣れた空と若干の違いがあるものの、星座自体は俺の世界のものと何ら変わりは無い。いくつかの見つけ方を教えれば、アイクは素直に星を辿った。双子、御者、七星の杓子。


「そうだな、あの星は覚えておくといい。北から動かないから夜でも方角が分かる」
「北極星か」
「何だ、知ってるんじゃないか」


少し意外で、苦笑交じりにからかえば天を見上げていた蒼石がこちらを向いて頷く。


「野営に使う星だろう。俺の世界のものとは違うだろうが」


そしてまた、星空を見上げて。


「他の星に形があることも、その探し方も知らなかった」


そう言って目を細める、脇目も振らず剣に打ち込んできたこの子供が、些細なことに足を止め辺りを見渡してくれるのが、密かな楽しみだったりする。





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