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  2


「もう一手、」
「アイク!」


いいか、と続くはずだった蒼の言葉を遮ったのは、緑を纏う勇者の内の、黄昏の力を持つ小僧だった。
大方、儂と此奴が打ち合っていると誰ぞに聞いて飛んで来たのであろう。真っ青な顔で駆けよってくるや否や、蒼の肩を掴んで剣の間合いより引き離す。
眼を丸めた小僧に怪我の一つも無いことを認め、ひとつ息を吐けば、直ぐ様儂をねめつけた。全く、此奴は分かりやすい。


「どうかしたか?」


首を傾げる蒼には儂が此奴を滅ぼそうとした敵であるなどと、そんな勘定は何処にも無いのだろう。心底不思議そうな視線に狼狽える様に鼻を鳴らせば、一層鋭くなった眼が再び儂を向いた。


「…テメェ、アイクに何もしてねぇだろうな」
「己の女に手を出されたかの様な口ぶりだな。何、手合せをせがまれただけの事」


揶揄に憤ったか、或いは嘗て姫を操ったことでも思い出したか。マスターソードを抜こうとした小僧を止めたのは、遣り取りを見守っていた蒼色だった。
気分が乗っていたからあれを襤褸にしてやっても良かったのだが、まあ、いい。


「俺が頼んだんだが」
「稽古の相手なんて俺でも先代でもするから!」


悲鳴を上げる勇者に、剣の稽古がしたいのか?、とやはり的外れな言葉が返される。元より此奴は人の心情など読むには長けていない。何処まで行っても平行線だろう。
それは小僧も分かっていたか、それ以上は言わず腕を取ると引き摺って歩き出した。去り際、今一度儂を睨むのも忘れない。さっさと行けとばかり手を払ってやれば更に目を吊り上げたが、文句は続かなかった。
代わりに、引き摺られる蒼から言葉が投げられる。


「いい修練になった。また頼む」


穏やかな声音と内容とに、唖然とした勇者の足が止まった。


「考えておこう」



儂の返答に満足気に頷く蒼を、慌てて勇者が引っ張って行く。姿が完全に見えなくなってから、儂は横手の茂みに声を掛けた。


「…何を企んでいる?」
「アイクを探してたから教えてあげただけだよ」


掴み所の無い笑顔を浮かべて茂みから顔を出すのは、先ほどの勇者の祖先たる小僧。此方まで近付くと、態とらしく小首を傾げた。


「アイクは、君みたいになりそう?」


笑顔を浮かべながらも、眼だけは鋭く此方を見据えている。子供のままの此奴は他の勇者たちよりも魔力に敏い。彼奴の持つ負の力にやはり気付いていたか。
同種の力、彼奴は此処に呼ばれた誰よりも儂に性質が近い。為そうと思えば、手駒にすることも不可能では無かろう。それを警戒しているのだろう、が。


「欲が一方向性過ぎて、他には無欲だ。あれは向かぬ」
「優しいからね。今の君には、それこそ似ていると思うけど」


告げた正直な評価に、そう返して今度こそ小僧は笑った。





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伝説の剣なればのフラグ回収。
確実に負の女神から祝福を受ける(から制御出来る)アイクと、結果的に女神から力だけをぶんどった(から暴走する)ガノン。力の性質は似てても全く違う形の二人。



 

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