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  12/5 KK's birthday


仕事が予定より早く終わった。冬の様相色濃い空はすっかり日を落としているが、時計を見ればまだ会社員は帰路にも着いていない頃合いだ。
だらだらと片付けをして社に戻り、このまま夜のシゴトまで仮眠でも取ろうかと思えばこれまた珍しいことに依頼は入っていなかった。ならばこれ以上用は無い、余計なことを言われる前に自宅へ帰ることにする。

悴む両手をポケットに突っこんで、フードに埋もれるように首を竦める。真冬でも手袋は付けたくない。自分の手指の感覚が狂う気がするから。マフラーは、言わずもがな。
少し血行が悪くて爪がすぐ青紫になるのに、顔を顰めたのは誰だったっけか。それでも今日は水仕事が少なかったから、まだ爪は青ざめた白に留まっている。

珍しくまともな方法で連絡を取ってきたカミサマの電話に素直に出てやったのは、そんな一日に少しだけ気分が良かったからかも知れない。


最初は何時ものように、どうでもいい世間話。それから次のパーティの誘いを受けて、にべもなく断る。これも何時ものこと。大体前回出たとこなんだ、曲も作っちゃいないし、何より面倒くさい。
カミサマも何時も通り不貞腐れた文句を笑いながら言って、それからふと、俺に問うた。


『けーちゃん今帰り道?もう部屋着いた?』


いきなり何だと思ったものの、素直に帰り道だと返してやればじゃあ上見て、と少しだけ弾んだ声で強請られる。
脈絡のない言葉に思わず眉を顰めつつ、言われるまま空を見上げた。明かりのない道を歩いているとはいえ、都会で夜空なんざ見上げてものっぺりとした暗色が蟠っているだけ――



その空を、奔る一条の金。




「え、」


思わず声を上げた途端、色とりどりの光が空を埋め尽くす。
長く尾を引いて流れていく沢山の流れ星。正に彗星と言うに相応しい大きな帯から、本当ならこんな街中じゃ捉えられないだろう細い線まで、次々現れて、そして消えていく。

足を止めてぽかんと見上げてしまったのが分かるのか、奴はくすくす笑いながら、見えた?などと嘯いた。


『今日降るっての思い出してさ、これは見せなきゃっ!と思って』
「…流星群にしちゃあ時期外れだな」
『まあね。天文学者が見つけられるそれとは違うよ』


星が歌ってるんだよ、とカミサマは言う。
確かに強弱様々な光が流れゆく様は、空全体が一つの音楽を奏でているかの様だ。何時かに連れ出されたパーティで、奴が奏でていた曲を思い起こさせる、壮大な賛歌。

意識を半ば空に奪われたまま、俺は止まっていた歩みを再開させた。いくら流れ星が綺麗だからって、このクソ寒い中何時までも立ち尽くして居られる程純粋じゃない。
電話の向こうにも聞こえるよう思いっきり舌打ちしてやれば、未だに笑っているカミサマが漸く本題に入ろうというのか、

つまりさ、と紡がれた前置きは、耳元と眼前とで重なった。


「星に願いを、ってね。今なら神様も聞いてあげるけど、願い事は?ミスター」
「とりあえず晩飯はラーメン」
「欲が無いねー」


神様が願いを聞いてやろうってんだぜ、なんて口を尖らせながら楽しそうに言う奴を鼻で笑い飛ばして、さっさと部屋へ。まあそれでも、平和に終わった一日と煌びやかな星の歌とで少しだけ気分が良かったから、ついでに部屋へ入れてやる。
ラーメンは無いけどコンビニのケーキが二個入りだったから一個あげるね、などと宣うカミサマに、仕方ないから皿とフォークは二個ずつ用意してやった。





(誰も知らない、自分も忘れたお祝いを、神様から君へ。)
(気付かないで、でも覚えていて欲しいと、願う。)





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KKさん誕生日おめでとーうっ!
うちのKKさんはとっくの昔に戸籍なんて改竄してて誕生日なんて忘却の彼方。神様だけが知ってるんでこっそりお祝いです。
多分他の皆は旧KKの日(11/11)とかに祝ってくれてる。今の戸籍が11/11なんじゃないかな←


 

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