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  KKと蔵ノ助と六


久しぶりの休みだ。
このところ、昼はビルの掃除をして、夜はライフルでお仕事して、床掃いて頭撃って窓拭いて心臓撃って落書き消して撃って撃って撃って。
その上で実に三週間ぶりの休みが取れた。
最初の五日目ごろまでは休みは何時だ、取れたら何しようか、ちょいと出掛けてもいいし家の掃除をしてもいい、何なら神様から催促されてる曲作りをしてやったっていい位の気持ちでいたんだが。
二週目に突入してからは疲れた眠い、労働基準どうなってると文句ばかりになり、けれども仕事の半分は労働にゃカウントされない悪どいもんな訳で、当然のごとく改善されずに更に一週間。
全部終わって今日。もう、なにもやりたくなかった。

埋め合わせとでも思ったか三日も休みを貰ったけれど、起き上がるのさえ面倒で、昨日は帰って布団に倒れ込んだ状態のまま眠って。
それでも人間寝続けるなんてことは出来ないようで、目を覚ましたのは朝か、昼か。時計は確認しなかった。興味もない。

起きたくない、動きたくない。腹は減ってないから飯も食べなくていい。
草臥れたカーテンじゃ防ぎきれない光の中に埃が舞っているのを、只ぼんやりと見て過ごした。





「そんで飯も食わないで二日倒れてたって?…馬鹿か」


傍から見れば部屋で行き倒れていた俺を発見した二人は、経緯を聞いて片方は隠しもせず呆れ、もう片方は無言で眉を吊り上げた。
盛大に溜息を吐いたヤクザの若頭は休みに入る直前の依頼主だった。この仕事が面倒で、結構な人数だってのに血痕を残したくないなんて言うもんだからきっちり現場清掃まで請け負わされて。
で。この蔵ノ助って男は顔に似合わず義理堅い奴なもんで、寒い中水仕事までやらされた俺に詫びにと大吟醸を持ってきた。

…まあ、この辺は連勤だっただの明日から休みだだの口を滑らせた俺にも非があるんだが。

そこまでならまだ良かった。だが、こいつがうっかり六なんかと行きあっちまったのが俺の運の尽き。
切り殺さんばかりの視線をぎろりと俺に向けたあと、無駄に面倒見がいいこのお侍は、刀を包丁に持ち替えてウチの台所を占拠してしまったのだ。

このまま行けば無理矢理にも起こされるに違いない。いや、既に起こされてる。
さらば俺の自堕落な休日。


「新手の自殺か?」
「二、三日飯抜いたくらいで死ぬかよ」
「…てめぇのツラ見て同じこと言えんなら、」


重症だな、と。二度目の溜息は呆れより憐憫に近かった。
そんな酷い顔は…そりゃあ、しているだろうな。

自覚がない訳じゃない。


だけど面倒くさいんだ、仕方ないだろう。起き上がるのも動くのも飯食うのも何もかも、やらなくていいんなら新手の自殺と言われても構わない。死にたい訳でも無いけど。一応。
またぼんやりとどうでもいいことを考えていたら、調理を終えたらしい六に軽く額を突かれた。幸い指でだったがこいつにやられると十分痛い。


「いいからこれ食って寝ろ」
「六さん、俺、腹減ってないんだけど」
「食え」


押しつけられた粥は白い湯気を立てて、いかにも旨そうで。腹は減ってなかったけど、せっかく作ってくれたもんだし、何より睨んでる六が恐いので大人しく啜る。
温かい水分が、腹に浸み渡る感覚。


「さっさと治せ」
「風邪じゃねぇよ」


至って真面目に六が言うので苦笑を返せば、ようやく、六はいつもの不敵な笑みを口の端に乗せて言った。


「てめぇが治らねぇと旨い酒を飲み損ねるだろうが」


鞘に入ったままの刀で蔵ノ助が持ってきた一升瓶を小突くので、六の酒豪っぷりを知っている蔵ノ助は少しだけ眉根を寄せ、諦めたようにまた溜息。
そんなやり取りを俺は喉奥で笑いながら、布団に倒れて、そのまま深く深く意識を落とした。





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弱ってるKKが書きたかった。もっと病ませてもいいくらいだと思っている←
無自覚ワーカーホリックでロー入ったKKといい加減下がり幅に慣れたが許さない六と初遭遇でちょっと引いてる蔵。



 

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