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  神様と世界と


サングラスを外して、時折、世界に見えに行く。


俺はこの次元と共に在る次元の意志そのものだ。だけど、次元を構成する世界そのものではない。
俺は音楽からこの世界を創った。けれど、この世界を構成する木や動物や人間ひとつひとつを創った訳じゃない。

だから俺の手の中で、それでも俺の手を離れた世界の構成員たちがどんな意志を抱きどんな風に生きているのか、俺は時々見に行かなくちゃならない。そうでもしなけりゃ世界の均衡は保てないから。
神様はひとりひとりに深く干渉すべきではないけど、俺はこの世界を喪くしたくないから、最低限の手はかける。最たるものがポップンパーティだ。音楽の力を使って、生きているものたちの輝きを借りて、俺は世界を廻す。
この世界に生きているものたちの中に大切な奴らだって沢山居て、そいつらのことはたとえ贔屓だとしても、大事にしてやりたい。


でも。


ありのままの世界は、何時からだろう、淀んだ色の中に沈んでしまった。
楽しい音や嬉しい歌ばかりじゃないのは元より承知、それが例え怒りや悲しみでも、純粋な気持ちが生み出す音は世界を廻すに足る力を持つし、強い輝きを持った音楽を俺は遍く愛している。
正負は等しく世界にあるべきだ。だからそれらは世界を沈める原因ではない。世界を濁らせているのは、無関心と無感動。色を失った、塵灰の虚構。それらは瞬く間に広がって、容易く伝染して、世界に根付いていく。

何で如何してと思う度、やり直しが頭にちらつくけど、やっぱり大切なものだって、綺麗なものだって世界には沢山あって。捨てきれない、そう思い直してもその輝きたちはやがて沈んでいってしまうのだけれど。
それでもやっぱり俺はこの世界を喪くしたくなくって、時折、ありのままの世界に見えに行くんだ。


サングラスを外してしまえば俺は世界に紛れてしまう。誰にも気付かれずに、誰でもない存在として。そうして紛れることで、俺は神様としてではなく、誰でもない誰かとして世界の欠片たちに力を貸してやれるんだ。
例えばほんのちょっと、タイミングをずらすだけ。ほんの一言、アドバイスを流すだけ。気にも留められないような、時が過ぎれば忘れてしまうような、些細な助力。

願わくば、淀んだ世界に影を落とす叢雲が、少しでも晴れてくれますようにと。




世界を見て回って、サングラスを掛け直す前にふと思い立って路地裏へ足を下ろした。

淀みの濃い、濁った色の世界。強い感情と言えば、血と、策略と、憎愛と、硝煙ばかりの其処に、揺るぎない黒がひとつ。今し方始末したのだろう死体と、鈍色に冷えた銃声を持つライフルを携えた知り合いの姿。
彼は俺ほどではないにしてもこの淀んだ色が見える筈で、俺より余程繊細で優しい感性を持っている筈なのに、この場所に平然と存在して、あまつ色褪せた灰色に身を浸している。
葛藤を、絶望を、悔恨を繰り返した先で虚無の灰色を身に纏わせて尚、彼の色は揺るがない。

彼は黒。闇よりも尚深い黒。何色かを混ぜ合わせたのではない、純粋なまでの、黒。俺自身が千紫万紅に色を変えるからこそ、愛しい絶対の色。
沢山の灰色を見た後はこの黒を――未だ揺るがないこの色を見ると酷く落ち着くのだ。まだ大丈夫。この世界も、まだきっと。と。

遠巻きに眺めてからすぐに帰ろうと、それだけのつもりだったのに、ぼんやり眺めすぎたのかふいに片付けをする彼と目が合ってしまった。
仕事柄当たり前だけど、彼は目撃者を厭う。分かり切ったことだからこそ見つかるつもりはなかったのに、これはまずい。今の俺を彼は「俺」だと分からない。始末される振りをすべきか、怯えでもした方がいいのか。それとも――



「…MZD?」



彼が、目を瞬かせて首を傾げる。俺は思わず目を見開いた。分かるはずないのに、例え神でも俺の創造物なら分からない、まして人間なら。


「お前、何してんだ?…というか、」


どうした?と、少し眉を顰めた彼が愛しくて、嬉しくて、飛びついて抱き潰してやりたくて、だけど今の俺は彼の知る「俺」じゃないから。神様じゃないから。彼が気付いたって、それは変わらないから。
にやりと笑って、闇へ溶かすように姿を消した。
明日は神様として彼に会いに行こう。思いっきり飛びついて、文句を言うくらいきつく抱き着いてやるんだ。そして、次のパーティに彼を呼べばいい。心ゆくまで彼の音を聞くには、それが一番いい。

世界を廻すには、それで丁度いい。
きっと何も聞かない彼の、見かけだけは灰色のため息を楽しみにして、サングラスを掛け直した。








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曲説とBADとLOSEとFIVER WINを自分なりに解釈した結果神が訳の分からないことになった。
あやふやな世界観を形にするのは難しいですね。もっと作り込んでおかないと。


 

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