アッシュとスマイル
野菜は一口大に切って、煮えにくいものから鍋の中へ。
ジャガイモと青物は別で茹でて後から加えること。型崩れしたりくたくたになったりした具材を出すのは料理人のプライドが許さない。
肉はとびきり上質な物、出来れば獲れたてが望ましい。
その辺はユーリの名前を出せばいくらでもいいものを融通してもらえる。ただ、正直それを振りかざすのは躊躇われるので、非常時のみ。今日は普通に購入した。
ちょっといいものを知ると、際限なく高いもの買ってくるから。二人とも。
程良く火が通ったら水を足して、しばし。
待っている間に付け合わせのサラダを手早く作り、鍋がコトコト言い出したら灰汁を掬う。
丁寧に。丁寧に。決して手抜きをしてはいけない。
灰汁を取れたら煮汁を少し取って、炒めておいたルーを引き延ばす。
もちろん、小麦粉から作ったオリジナルのルー。市販品なんて一発で(メーカーからブレンドに至るまで)バレるし、それなりにこだわりだってあるのだし。
本当は、飴色タマネギも入れればいいんだけど、俺はタマネギ食べれないから。
いや、好き嫌いとかじゃなくって、種族の問題で。
代わりにチャツネを数種入れて代用する。フルーツのと、ハーブのと。スパイスも工夫して。
それでも、タマネギ入ってるの美味しいヨネ、なんて言われてしまうのは目下の課題な訳だけれども。
最後にガラムマサラを投入。もちろん、これもオリジナル。
「ん、完成ッス」
少しルーの配合を変えた今回のカレーは双方の口に合うだろうか。というか、今度こそギャフンと言わせてやりたい。特に、
そろりとお玉を引き寄せようとする、透明な手の主には。
「つまみ食いは駄目ッスよ、スマ」
「ウウン、味見だヨ」
見えない手をぴしゃりと叩けば、おどけた声が返る。透明にならない口だけが、声音とは裏腹不満そうに歪められた。
「アッスくんひどーい」
「何言ったって駄目ッス。味見したら楽しみが減るでしょう?」
「なになに、今日のは自信作ナノ?」
宙に浮く口が、今度は楽しげに吊り上がった。瞬きひとつの間にキラキラ輝かせた赤い瞳と、青塗りの肌とが出現する。
心底嬉しそうな笑顔に、俺も笑みを返して。
「もちろん。覚悟しとくッスよ」
もっとも、自信が持てないようなものを食卓に上らせた覚えはないんだけど。
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カレーの作り方は初心者講座みたいなのから引用したので間違ってるかも。
アッシュのカレーが食べたいのはシキミです。
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