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  イナリとKK


しくじった!そう思った時には大抵の場合後の祭りで、今回もまた例に漏れはしなかった。

聳えたつ建物の間を縫うように駆ける。生まれ持った短い手足は野山を渡るには優れれど、硬き街を走るには頼りない。
我ら化性の者が最も忌むべき新月の夜――月の魔力を借りることが出来ず、元来の姿に戻るより他無いこの夜を数え違えるなど、元の世界では有り得る筈も無かったのに。
どれ程この世界に浮かれていたのかと、幾ら悔いても今や詮無いが。


がんっ、と鳴る耳障りな衝撃音。壁にぶつかり落ちてくる缶を避けようと慌てて止まれば、次は体の真横を石礫が行き過ぎる。


「何だよ、外してんじゃねーか!」
「うっせえよ!」


げらげらと笑う、癇に障る声の男共。変化が解け、慌てて駆け込んだ路地裏にいた彼奴等は、弱きもの、小さきものを甚振ることに悦びを見出す下種の類。
元の姿に戻った己は絶好の標的だった。
質に気付かなかったが為に、最初の一撃を避けられなかった。石に打ちつけられた尾はじくじくと痛んで足の運びを鈍らせる。だが、止まれば嬲り殺されるのみ。

この手に剣があれば。いや、剣を振るわずとも、人の姿に成ることさえ出来れば決して遅れなぞ取らぬ相手だと言うのに!


細い路地を只管に駆け、辿り着いた先は袋小路であった。元より闇雲に駆けていたとはいえ、思わず神を呪う。

下卑た笑みを浮かべた男たちは、獲物を追い詰めた余裕からかゆったりと近付いてくる。咄嗟に入り込んだ木箱に、彼奴等は手に手にもった鉄棒を振り下ろした。
どうやら木箱ごと己を打ち殺すつもりらしい、と、頭ばかりが妙に冷静だ。逃げる算段を付けようにも最早打つ手は無い。鉄が振るわれる度に木箱は木屑を撒き散らし、取り払われるのも時間の問題だった。

せめて目は逸らさぬ、そう決めて隙間から睨みつけた男の片方が、横っ飛びに吹き飛んだのは突然の事。


「なっ!?」


それまで男が居たところに佇む背の高い影。驚き動きを止めたもう片方にも容赦ない回し蹴りを見舞ったのは、緑の外套を羽織った男であった。
辛うじて意識のあるらしき下種共を止めとばかりに踏みつけ、男はこちらへと近付いてきた。身構える己に掛けられたのは、柔らかい声。


「猫。ねこー。無事か?」


そう言いながら優しい手付きで木箱を退かす、聞き覚えのある男の声。どこでだったか。ああ、そうだ。神が招いた宴席で。


「………キツネ?」


己を抱き上げたのは、招かれた宴の舞台で楽しそうに水を撒き踊っていた、掃除屋と呼ばれる男だった。





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そしてお持ち帰りされて手当とねこまんまを頂くイナリ。
けけさんはしばらくイナリと気付かずにデレッデレしてて、気付いた瞬間居た堪れずリアルorzしてればいい。


 

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