pm | ナノ



  Dとジャックと六とフロウ


魔女の大鍋、と言うよりは昔話で囲炉裏に掛けられているような、但し半端なく巨大な鉄鍋が黄色と緑で埋め尽くされていた。
いつもの刀を菜切り包丁に持ち替えた六さんがばっさばっさと解体していくカボチャは、既に八個目である。先生たちが高校生を連れてくるとはいえ多くないか。思ってても言えないけど。

俺はと言うと、六さんが割り開いたカボチャのワタをひたすらスプーンでそぎ取っている。六さんが超スピードなので必然的に俺も全速力だ。
六さんがカボチャを割る、俺がワタを取る、六さんが一口大に切る。以下繰り返し。正直、右腕がキツい。
ちなみに同じくワタ取り係に任命されたジャックは、一つ目でカボチャを粉砕したため早々に戦線離脱、居間でフロウとテレビを見ている。ちょっとうらやましい。

山盛りカボチャが目出度く十個の大台に乗ったところで、俺はようやくお役御免となった。
ザラメで煮付ける六さんのカボチャは文句なく美味い。評判が良いから食べにくる奴が居たりとか、ご近所にもお裾分けをするから毎年大量に作るのは知ってたけど、ここまでとは。
来年は絶対手伝わない。心に決める。



とりあえず煮えるまでは暇なので、時間つぶしにテレビでも見ようかと居間のコタツに潜り込んだ。手足がじんじんと温まっていく。今日は今季の最低気温を更新するらしい。
テレビでは少し前に流行った終末論を取り上げている。多分再放送だ、なんとなく見覚えがあるそれをぼんやり眺める。

そういえば予言の日は今日だったなあ。頬杖ついてる俺。じっと見つめているジャック。


「この世界も、ほろびるのか」


テレビを見たまま、ジャックが零した言葉は真剣そのものの声色をしていた。
ここでようやく俺はジャックの故郷がもうないことを思い出し、学者の諸説を述べ始めるフロウを手を振って遮りながら、努めて軽い調子で、んなわけないってと断言する。
テレビから俺へと視線を移した赤い瞳は、痛いくらい真っ直ぐだ。


「MZDは、カボチャ食いに来るって言ってたぞ」


神様がそんなじゃ世界が滅びようもない、だから安心しろと続ければ、ジャックも素直に頷いてまたテレビへと視線を戻した。俺もちょっと安心してコタツに潜り直す。温い。
台所からは醤油が煮詰まるいい匂いが漂い始めている。



がらり、と引き戸が開く音がして六さんが顔を覗かせたのは、さっきの番組が終わってこれまた再放送のアニメが始まった頃合いだった。
コタツに顎を預けてうつらうつらしていた俺はその音で跳ね起きて、六さんとフロウに笑われた。恥ずかしい。学生組が帰ってくる前で良かった…


「味見を持ってきたが、いらないか?」


にやりと悪人面で笑んで意地悪く小鉢を遠ざけた六さんに俺は速攻でひれ伏した。もちろん六さんはすぐに俺、とジャックに小鉢を奨めてくれたけど。


「後で包んでやるから、けえにも持ってけ」


六さんがそう言って、ジャックはこくりと頷く。フロウはにこにこ笑いながらジャックに冬至の謂れを語り、ジャックはそれにも頷く。
KKさんが最近痩せたのだと、うっかり口を滑らせたジャックによってお持ち帰りの包みには肉やら何やらまで追加されることになったようだ。カボチャもいれたら二人分を超過するだろう。

世界が終わる気配は一向になく、ほかほかのカボチャは文句なしに美味かった。





-----

冬至はカボチャと柚子湯でしょう。柚子要素を足せませんでしたが。
日本の行事は六さん出したらいいと思ってる←



 

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -