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思春期とせいと死

※この作品はイジメ・自殺を推奨するものではありません。
※暴力・死表現があります。

 たくさんの花の前に、彼女は寝ていた。寝ていると表現するのは、間違っているのだけど、ぼくは――参列者は彼女の顔を拝見することができないから、まだ実感がわかないというのが本音だ。
 飛び降りだったから、コソコソと小さな声で話すおばさんの声がやけに耳について、耳障りだ。思わず咳払いをすると、おばさんがぼくを見る。すぐに視線は戻され、おばさんは口を噤んだ。
 ぼくが、彼女と幼馴染だということを知っているのかもしれない。
 そう、彼女は、間違いなくぼくの幼馴染の「篠原(しのはら)りさ」なのだ。幼馴染といってもぼくは彼女のことを何も知らない。仲が良かったとは、たぶん言えない。結局ぼくは、彼女の事が解らなかった。
 篠原りさとは幼馴染で、小学校の頃まではよく遊んでいた。当時は、あだ名で呼び合うような仲だった。ぼくは彼女を「りさ」と呼び、彼女はぼくを「まーくん」と呼んでいた。高木雅章(たかぎまさあき)だから、まーくん。幼馴染で、さらに家も隣同士だったからよくお互いの家を行き来していた。それが中学生になったある日、「まーくん」から「高木くん」に変わる。必然的に、ぼくも「りさ」から「篠原さん」に変わった。
 ぼくらの関係は、更に、幼馴染からいじめっ子といじめられっ子へと変わっていたのだ。今思えばそんな関係性に変わったのは、ぼくが彼女の腕を掴んだ翌日から変わったのような気がする。
 休日に、街で友達と遊ぶために地元駅で電車を待っていた時のことだ。そこに、たまたま彼女もいた。彼女を見付けたぼくは、思わず彼女に視線をやったが、彼女はぼくの存在に気付いていないようだった。
 ホームに電車が入ってきたその瞬間、彼女はゆっくりと足を進め始めた。ぼくは慌てて彼女へと近づいて、腕を掴んだ。彼女はパッとぼくを振り返る。無表情だった。無表情のまま、ぼくの手を払って彼女は電車に乗り込んでいった。ぼくも慌てて電車に乗り込んだが、気まずくて隣の車両へと移動した。
 その次の日からだったと思う。彼女とその取り巻きに、無視をされるようになった。それがどんどん広がってクラスメイト全員に無視をされ、更には学年全員に無視をされるようになった。友達も、いなくなった。
 そんな地獄のような日々に、更に追い討ちを掛けるように、隣の家に住む彼女はぼくに彼女のセーラー服を着るように強要してきた。これは、いつも二人きりの時だけだったが苦痛で仕方がなかった。その時だけ、彼女は、ぼくに暴力を振るう。
「きもい」
 無理矢理着せた癖に、そう言ってぼくを足蹴にする。スカートの上から踏まれたときは、泣いて許しを請うたけど彼女は笑うだけでなかなかやめてはくれなかった。
 その時の彼女は、ぼくの知っている「篠原りさ」とはまるで別人だった。まるで、篠原りさという同じ顔をした人間が、何人もいるかのような気分だった。
 そんな地獄の日々が、こんな形で幕を閉じるとは思っていなかった。彼女はその日、いつものように学校ではぼくを無視し、家ではぼくに女装を強要した。いつものように暴力を振るわれ、散々足蹴にされて解放された。いつも通りだった。いつもと違ったのは、その後、彼女が近所の高層マンションから身を投げたという事だった。
 両親からその話を聞かされ、実感もわかないままぼくはここにいる。彼女の顔が、見てみたいと思うのは好奇心なのか何なのか。解らないまま、ぼくはお焼香を上げた。
2015.04.02


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