2人きりの時間、大体は、横になって本を読むかテレビを観て過ごしていることが多いけど、今日は違う。
もはや本を広げて寛ぐことすら許されない状況に、俺はただ苦笑いするだけ。
「えっと……」
目の前には悠の笑顔と、その手に握られているお菓子。
銀袋に包まれているから一瞬分からなかったけど、近くに置かれていたパッケージを見つけてすぐに察しがついた。
「あー……、今日はそんな日だったっけ……」
「きっと正解」
ペリペリと銀袋が剥かれ、そこから香るチョコレートの匂い。
悠は1本だけ出して、煙草を吸うような格好をして俺に見せつけてくる。
姿には惚れるのに、考えていることは残念なんだろうな。
「この細くて甘いポッキーと、俺の太くて濃厚なポッキーを、陽介が頑張って食べる日だ」
「そんな日なんてありません」
やっぱり俺の考えていたことが当たってた。
今のはちょっと修正入ってもおかしくないレベルだったと思う。
「じゃあ早速。ん」
ん、じゃねーよ。
ポッキーを銜えて待っているあの姿勢、言われなくてもすぐに分かっちまうあたり、コイツのしたいことよく理解してるな俺は。
銜えているポッキーを動かしているのはお前も食えという合図、所謂ポッキーゲームしようぜというやつだ。
「……そっちの、お前が手に持っている方を食べたいんだけど」
悠が持っている袋に入ったポッキーを指しても、無言で首を横に振られるだけ。
仕方なく、反対側から銜えてみる。
すごい速さで迫ってくるんだろうなって予想していたけど、悠は何もしないで俺の顔を黙って見ているだけで。
「……」
「……」
そもそもポッキーゲームにちゃんとしたルールがあるのか分かんねーけど、一般的には食べている最中に唇を離したら負けっていう遊びだ。
こっちは気持ちが保たねーし、余裕の笑みをして見つめてくる悠には楽勝なんじゃねーかな。
なのに動く気配がないのは、また何か変なこと考えているのか、俺のこと試そうとしているのか。
「……っ、ああ、もう!」
「……陽介は、にらめっこもすぐに負けそうだな」
無言で見られるのに我慢できなくて口を離したけど、そりゃお前のこと直視できるかって言われたら、正直できない。
「ごめん、陽介のことずっと見ていたくて。はい、続き」
「結局やんのか……」
さっきと同じようにポッキーを銜え、悠が食べた音でスタートが切られる。
とりあえず控えめにかじる程度で終わらせてから離れてやろうと考えていたら、後ろで押さえられていて顔が退けない。
「……!」
気付いたら、唇に柔らかい感触。
悠の手で後頭部を押され、しまったと思った時は逃げ道を完全に塞がれた。
「っ、ふ……」
油断していたせいで半開きになっていたのが読まれ、容赦なく舌が入り込んでくる。
同時に、チョコの味が一気に口の中に広がった。
「は……ッ、ン、っん……?」
身体が揺れていると思ったら、悠がそのままのしかかってきて、押し倒されている形になっていることに気付く。
ようやく唇が離れたのは、食べていたポッキーを完食した後だ。
「……あの、何で押し倒されてるんですかね俺……」
「ん? だから、ポッキーゲーム。これからだろ?」
そう言いながら人のズボン下げようとしてくるその力強い手は何なんだ。
どう考えてもポッキーゲームじゃない方向にいっているのは分かったから止めたいのに、押し倒されている時点でアウトなことに気付いてしまった。
「俺の知ってるゲームじゃねー気がするけど!」
「大丈夫、俺が優しく、ルール教えてあげるから」

普通にポッキーが食べたい、そう言っても今のコイツの耳には届かないだろうな。




2014.11.11




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