政宗が珍しく出かけようと言った。
滅多にそんなこと言わない彼が言ったもんだから、俺は張り切って叶えてやりたくて。
何処に行きたいのかと聞いたけれど彼は何も答えず、車に乗り込んだ。
「ねぇ、政宗?どこ行くの?」
ラジオもCDもかけず、シンとした車の中。
普段はペーパーで運転なんてしない政宗が、ペーパーとは思えない腕前で走った事のない道を走る。
一体何処に行く気なんだろう?
何度話し掛けても、政宗は答えてくれない。
俺には政宗がよくわからなくて、ただ見たことのない景色を、助手席の窓から眺めた。
途中で花屋に寄った。
政宗が頼んだのは、華やかなバラでも、母の日用のカーネーションでもなく。
白や黄色の菊、ヒャクニチソウ、そして春の仏花の一つである金盞花。
「ねぇ、もしかして・・・お墓参り?」
聞くと政宗は漸く、小さく小さく頷いてくれた。
そして、静かに告げた。
「もう・・・何年も行ってない、から・・・。
世話になったんだ。いっぱい。
大好き、だった・・・。
だから、さ・・・」
「でも、お墓参りなら、お彼岸に行った方が・・・」
「いつ、仕事入るかわかんないだろ」
「・・・そだね」
俺達は、所謂お医者さん。
しかも政宗は、救命の医者だ。
なかなか休みもとれないし、いつ何時仕事が入るかわからない。
今だって、政宗のポケットには病院のPHSが入ってる。
「行けるときに・・・行っておきてぇんだよ」
車が発進する。
前を見据えながらも静かに微笑む政宗の横顔は、いつもは見ることのできない、穏やかな表情だった。
季節外れの霊園には、余り人がいなかった。
迷いない脚取りで奥へ進んでいく政宗の背中を追いながら、俺はふと思った。
「ねぇ、そういえば・・・誰のお墓参り?」
「じいちゃんとばあちゃん」
「どっちの?」
「伊達の」
ってことは、苗字は伊達・・・。
「あ、あった」
「これ?」
「ん・・・」
一つの墓石の前に、政宗は立つ。
黒い御影石に、金の文字で『伊達家之墓』と彫られたそれは、お金持ちな政宗の家らしいな、と思った。
政宗はせっせと枯れた花を捨てて新しい花を差し入れ、水を汲んできて墓石を洗った。
そして線香に火を付け、手を合わせた。
俺も一緒に、手を合わせる。
政宗のおじいちゃん、おばあちゃん、初めまして。
政宗の恋人の猿飛佐助です。
男が、なんて驚くでしょう。
でも、俺は政宗が好きなんです。
大好きなんです。
誰よりも幸せにします。
だから、俺に政宗をください。
目を開けた時、一瞬だけ。
黒い御影石に、優しく微笑む老夫婦が、映った気がした。
fin
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