誰かさんを呼ぶ声








「ふぇ・・・あ・・・ぅ・・・」


泣かないで。
泣かないで。
苦しくないよ。
大丈夫なんだよ。
だから、泣かないで。

病院の検査から帰った日。
政宗は元気が無かった。
元々政宗は病院が大っ嫌いだ。
風邪を引いても
熱を出しても
怪我をしても
絶対に行きたがらない。
だけど、月一の検査と診療には行かなきゃいけないからと、がんばって行った。
行きたくないと何度も言いながらも、自分の足でがんばって行ったのだ。

検査の結果は、悪くなかった。
身体の状態は良好らしい。
問題は、精神。
不安定にグラグラ揺れてる、政宗の心。
今日も検査に行って、病院の薬品の匂いに具合が悪くなり、数回吐いたらしい。
帰って来てからも、ずっとこの状態だ。


「ぅぇ・・・ふ・・・ぅぅ・・・」
「よしよし、もう大丈夫だから」

政宗はずっと、俺の腕の中で泣いてる。
よっぽど病院が嫌だったらしい。


数年前。
政宗は事故に遭った。
政宗の家族4人が乗った車に、別の車が運転席側から衝突したのだ。
運転手だったお父さんは、病院に運ばれ処置を受けたけれど、数日後に亡くなったらしい。
運転席のすぐ後ろに乗っていた政宗は、重傷。
内臓のいくつかを移植した。
助手席に乗っていたお母さんとその後ろに乗っていた弟さんは、軽傷だったらしい。

あの事故は、謀られたものだった。
政宗とお父さんを殺す為に。
家族であるはずのお母さんと弟さんが、計画したのだろう。

退院した政宗に、帰る場所は無かった。
全てを聞かされた後に、家から追い出されたのだ。


深い深い悲しみと、絶望。
唯一自分を愛してくれた人の死と、家族だと信じていた者達の裏切り。
まだ上手く動かない身体で、政宗はうちに来た。
泣きながら、うちに来た。

『さすけ、たすけて・・・。おれ、かえるとこない・・・』

細い身体を抱きしめて、今日から此処が政宗のお家だよ、と言ったのはもう、結構昔のような気がする。
俺は政宗が好きだった。
同じ学校の同じクラス。
あんまり人付き合いが得意じゃない政宗が、好きだった。
俺にだけは弱さを見せてくれる政宗が、好きだった。
だから、俺を頼ってくれるのが嬉しかった。


政宗は、病院が大っ嫌い。
お父さんが死んだあの場所が。
真実を聞かされたあの場所が。


「ひくっ・・・ふぇぇ・・・」
「もう大丈夫。俺がいるでしょ?ね?大丈夫だよ」


政宗の叫び、憤り、悲しみ・・・全部受け止めるよ。
大丈夫。
俺が受け止める。
全部、全部。
だから、聞かせて?
政宗の本当の、叫びを。





fin





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