ただただ、それが心地よかった






弟が生まれた。
名前は、「佐助」
父さんも母さんも嬉しそうだった。
俺も、嬉しかった。
だから、俺は「兄」にならなければと思った。


自分がした寂しい思いを、「佐助」にさせないように。



佐助を保育園に預けられるようになるまでは、母さんは家にいた。
毎日佐助を抱っこして笑っている母さんが家にいる。それが嬉しかった。
しかし、そんな日も長くは続かない。
保育園に空きができた、と言われて母さんは幼い佐助を保育園に預けるようになった。そして今まで通り、仕事に行くようになった。
俺は母さんからミルクの作り方や何やらを教わって、授業が終わった放課後に佐助を迎えに行き、帰ったらミルクを作って飲ませた。風呂にも入れて、自分のベッドに佐助も寝かせた。
本当に母親のようなことをしていたのだ、今思えば。
それでも辛かったかと問われれば決してそんなことはなくて、むしろすごく満たされていた。
一人じゃない。
その事実が、ただただ心地よかった。

やがて佐助がしゃべるようになり、立ち上がり、歩くようになり。
成長していくのが嬉しいと同時に、心配でもあった。

『佐助は、寂しくないだろうか。ちゃんと俺は、母さんの代わりになれているだろうか』

いつからかそんなことを考えるようになった。
だから佐助が眠れない、と俺の部屋に来るとき。
俺は佐助のおでこにkissをして、頭を抱きしめて眠った。
例えそれが錯覚でも。
その時だけは、母さんや父さんのいない寂しさを紛らわせられるように。
母さんに抱かれて眠っているのだと、きちんと愛されている、と伝えるために。


自分が経験してきた孤独を、幼い弟に、感じさせないために。








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