すっかり陽の落ちてもうた、暗闇の世界。
見上げたそこは、闇っちゅうキャンパスに幾億の宝石が散らばったような、夜。

こないセンチメンタルな気分に浸っとる俺を見たら、ひよ里辺りに

『気色悪いわハゲ!』

なんて、罵られそうやと、少し笑った。

あいつの好きだった曲に出てきた、"四角い空"ゆう歌詞。
地べたから見上げるから、そないな空に見えんねん――なんて、口に出したことはあらんかった。

こうやって、人目につかん真夜中に、人様の屋根の上から見上げたのは、空なんか思い出なんか。
――俺には、わからへんかった。

物思いに耽って、寂しゅうなるなんて、俺も随分と女々しかってんなぁ。
それに比べて、お前は今も相変わらず"男前"に生きとるんやろか?

――アカン。

こないな感傷、柄にあわへんわ。

お前が見たら、腹抱えて笑いそうやな。
口に出さんと、その顔に「似合わない!」思うとることがバレバレな表情で。

――アカン。

考えすぎたわ。
段々と、俺の中のストッパーが効かへんくなってっとるのがわかる。

お前に関してだけ、短気になってまうねんな、俺。

――気付いたら、駆け出しとった。
駆け出すゆうより、瞬歩やってんけど。




完全に、霊圧抑えて辿り着いた街。

そない時間が経っとる訳やない。
慣れ親しんだ筈の街は、相変わらずつつしまやかに時間を刻んどる。

――変わらないこの街で、お前は変わったんやろか。

今となっては、もう何もわからん俺。

それが何か虚しゅうて、切なくて、どうしようもなくなってもうた。

目的のマンションを、道路挟んで向かいに建ってるビルの屋上から眺める。

鮮明に記憶に残るバルコニーを見付けて、ついでに忘れたくても忘れられへん姿を見付けた。





――天気の良い夜。
星空を見上げて、新作カクテルの試作品を片手に、煙草を吸うのが私の日課。
昔なら、ちょっとした悩みなんかを考えつつ、殆どが新作カクテルのレシピが頭の大半を占めていた。

だけど――今はどうだろう?

気が付けば、"あいつ"のことばっかりで、頭の中が埋まっている。

思い出とか、思い出とか、今何してるのかなとか、重い訳でも軽い訳でもないことばかりだけれど。


「カクテルにヤキモチ妬きそうやわ」


拗ねたようにそう言った一言を思い出して、思わず笑ってしまった。

見知らぬ誰かから見たら、何にもないのに笑っている私は、とても異様に映るんだろうな。
生憎、この真夜中とも言える時間帯。七階にいる私のことを見られる人は、空を飛べるような鳥人間しかいないだろうけれど。
それか、重力の関係なさそうな幽霊か。

澄み切った夜に、紫煙が舞って散っていく。


「思い出にも夢の中にも出てくるなんて、どんだけ私のこと好きなのさ」


なんて、ね。
呟いたところで、「それはお前ん方やろが!」という、懐かしい突っ込みは返ってこない。

わかってる癖に、期待してしまう私は、馬鹿みたいに自虐的だ。

そう思うと、自然と自嘲的な笑いが零れた。





無駄に地獄耳な俺の鼓膜は、数メートル離れた"あいつ"の馬鹿らしい台詞まで、しっかり聞こえとった。

ホンマなら、全力で突っ込んでやりたい。
やけど、あながち間違っとるわけでもあらへん、事実。

しいて言ってやる言葉があるなら、

『俺もや』

やな。
お前こそ、どんだけ俺のこと好きやねん。

一緒におる時は、殆ど言わへんかったくせに。


――俺もお前も、ホンマ、馬鹿みたいやな。


言いたいことも同じで、望んどることも一緒な筈やのに、こない近くにおんのに、

触れることのでけへん、遠い遠いこの距離は、なんなんやろな。


俺は両手に持ったままの、"決断でけへん決意"を持って、"今の街"に踵を返した。

耐えられんく、なる前に。





空座町に着いて、ようやっと抑え込んどいた霊圧を解放する。
勿論、人に害を与える程のものやない。

すると、すぐそれに気付いたんやろな。慣れた霊圧がすごい勢いで近づいてくるのがわかった。


「やっと見付けたぜ!霊圧まで消してどこ行ってたんだよ!?町中探し回っちまったじゃねーか!」

「おー、すまんかったなァ。ちょいと思い出の蓋開けとってんか」

「・・・・・・はぁ?」


訝しげに俺を見てくる一護。いや、訝しげゆーか、気色悪いもんでも見たような顔や。
失礼な餓鬼やなぁ、ホンマ。


「俺にやってなぁ、忘れたないもんくらいあんねん」

「ふーん・・・。って、そうだ!今日は俺の特訓付き合う約束だったろーが!」

「あぁ、せやったな。んじゃま、アジト行くかァ〜」


――忘れたくても、忘れられへんよ。

ホンマは、あんな距離やなくて、正面から会いに行きたくてしゃーないんやで?

必死こいて欲求抑えても、あんな台詞聞いたら、止まらんくなってまうやないか。



――もうちょいだけ、待っててくれへんか?



俺の変な決意が固まる前に、ちゃんとケジメつけてくるから。
したら、全部が全部は無理やもしれへんけど、ちゃんと話すから。

せやから、頼むから、


また会うた時、あの顔で笑って欲しいんや。




さよならさよなら
逢 い に い く よ
("ただいま"、ゆーたら)
(君はまた"おかえり"ゆうてくれるんやろか)



2010.11.24



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