愛 正義 誠 平和 幸福
何てクダラナイ言葉の羅列

この世で美しいとされ、
崇められ、
求められるべき、言葉達

・・・嗚呼、
何てクダラナイんだろう

全て振り向けば
憎悪 悪意 偽善 戦争 不幸

隣り合わせだと言うのに


人間と言うのは、
愚かな物ばかりを求める







「何故、愚かだと言うの?」

「だって、人間は手に入れてもまた、求めるじゃない」


仕事の帰り道、スラム程とは言わないけれど、錆びれた路地裏でボクは見つけた。(いや、見つけられた)目の前で、精一杯疑問を持ち、首を傾げる少女。名を、ナマエと言う。
彼女は誰も居ない場所で、それは小鳥が朝を告げるかのようにささやかに、森の木々が葉を鳴らし、会話をするかのように、透き通った声で――鳴いていた。
歌ともつかないその旋律は愚かな人間の欲望を称える言葉を並べて、それは哀しげに鳴いていた。


「エンヴィーは、人間じゃない者なのね」

「それは、ナマエが一番良く知っている事でしょ?」


其処らに居る人間のように、喜びや楽しさを含ませていたのなら何て煩わしいと、即座にその命を奪っていたのに。言葉というものは何も成さない、と、そういうように、彼女は旋律で世界を拒否していた。


――心惹かれたのは、きっとそのせい。


犬の姿に形を変えていたボクは、その状態で彼女の前に佇んだ。勿論、一切の物音は出していない。なのに、ナマエは言ったんだ。

「ねぇ、ずっと、喋らないけれど」

「お話しませんか?」


犬の、ボクに。
驚いたよ、そりゃさ。だって人間は、犬に返答を求めたりしないでしょ?まぁ、すぐにその理由はわかったのだけれど。


――抑揚の無い瞳は焦点を合わさない。


嗚呼。彼女は、盲目なのだ、と。








「犬だったり、猫だったり、女の人だったり、忙しいものね」

「大した事じゃないけどね」


それが、ボクの能力だから。
・・・・・・ホムンクルスだとは、言ってないけど。(言ってもまた首を傾げられるのがオチ、だ)


「大した事じゃ、無い?」

「何で聞き返すのさ」

「だって、大変でしょう?」

「何が?」


姿形を変えるのは、君が歌を歌うくらい簡単な事なんだよ、と、言いかけた。


「変化したものの、気持ちを知るのは」

「・・・・・・は?」


何て間抜けな反応を返してしまったんだ。
でも、その格好悪さが取り返せるだけの意味を、ボクはまだ理解していない。


「犬、猫、女性、子供・・・全て、違う生き物だもの」

「うん、そうだね」


だから、便利なんだけれど。


「一つ一つ理解していくのは、重たいと、思うの」

「・・・・・・・・・?」

「考えるものも、求めるものも、それぞれが、違うから」

「・・・・・・・・・」


――やっと、ナマエの言いたい事が解った。


簡単に例えると、人間にとって"正義=正しいモノ"だけれど、ボク達にとって、人間の言う"正義=煩わしいモノ"だ、という事。
それを理解していくのは、大変だろう、と、ナマエは言っている・・・んだと思う。


「姿を変えるのに、思考は要らないよ」

「要らなくても、考えてしまう」

「考えてないし」

「じゃぁ何故、エンヴィーは人間を愚かだと言うの?」


――考えて、解ってしまったから、"愚かだ"と、言うんでしょう?


彼女の言葉は、ボクの知らない部分を深く、深く刺した。何故か、頭が痛い。


「人は、愚かよね。そして、儚いわ」

「・・・・・・・・・」

「たった少しの切り傷で、光を失ってしまう程、脆い」

「・・・・・・・・・」


「だけど、失って、見える事もある」

「・・・・・・?」


ナマエは、言った。でも、目が見えなければ何も見えないじゃないか。


「貴方の本来の姿よ、エンヴィー」

「・・・!!?」


ボクは、思わずナマエの首に刃を立てた。盲目のナマエは視覚の分聴覚が発達しているから、避けられない筈は無いのに
――その眼は、ボクを見据えている。


「じゃぁ、ボクの醜い姿が、ナマエには見えるってわけ?」

「醜くなんて、無い」

「はぁ?」


戯言を、


「綺麗、よ?とっても」

「嘘吐き」

「嘘じゃない、貴方は、穢れていないわ」


何を、言っているのか?全く持って理解不能。


「ボクは、人殺しだよ?」

「人は、いつか死ぬものだもの」

「その余生を短くしているのは、ボク。それは罪でしょう?」

「・・・・・・・・・」


ナマエは、少し黙って、微笑んだ。




「人間の世界では、ね?」








人間が愚かだと、そう感じるのは "人では無いボク"
人間の犯す行為を"罪"だと、"禁忌"だと口にするのは "人で有る、ボク"


盲目の少女は、光を見ない。
でも、その代償に、正の中の負を、負の中の正を見る人だった。


人間になりたいと願う僕を、人では無いと認めたナマエ。
人間を憎む僕を、人で有ると言ったナマエ。


心惹かれたのは、反面した裏側を、彼女が見つけ出してくれると思った


――から、なのかも、知れない。






「君が好きだよ」

(それは きっとどのボクでも)(共通に言える想いなんだろう)




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