――ひらひら
――ひらひら
今、俺の目の前で無防備に宙を舞っている白魚みたいに白いそれが、諸悪の根源――いや、俺の悩みの種だったりする。
野球馬鹿には笑われ、十代目にすら溜め息を吐かれてしまった今日。今日こそは、達成したい。
そうだ、これは任務なのだ。十代目からの無言の威圧を命令だと思えば、さほど対したことでもない・・・と、思う。思うんだ。思えってんだ俺!!
「どうしたの?獄寺君」
「なななな何でもねェ!」
「・・・っはは、変なの」
い、い、いきなり振り向くんじゃねーコノヤロー!!
と、口に出す訳にもいかず(それは完全な八つ当たりだ)、右手をぎゅうと握りしめる。
――いつだって、この手は無力だった。
欲しい物ならなんだって手に入った幼少期。本当に欲しかった者は、俺の知らない所で、知らない内に亡くしてしまった。
"子供だったから" そんな言い訳、ヘドが出る。"子供"だったかもしれないけれど、それ以前に、俺は"無力"だった。
大切な物を守る術が欲しくて、力を着けた。もう二度と大切な物が、まるで砂のように指の間をすり抜けてしまわぬよう、強くなりたかった。
それでも――不安だった。
十代目の右腕になると誓った日から、俺の未来は決まっている。"ボンゴレ"程大きなマフィアとなれば、抗争は免れない。実際、もう既に、抗争は起こっているのだ。
この目の前を歩く細い女は、その場になれば真っ先に狙われるだろう。戦う力を持たない彼女は、一瞬でその儚い命を終わらせてしまうのだろう。
そんなことに、巻き込みたくはない。それでも、一緒にいて欲しい。我が儘だなんて、元より承知している。
もしも彼女と十代目が天秤にかけられたなら、俺は迷うことなく十代目を救う。それは、マフィアとして当たり前のことだ。医者が身内よりも他人を優先して診るのと、同じ原理。
守ってやれる確証もないのに、俺がこの手を握る権利はあるのだろうか――駄目だ、無い。そんな権利。
結局、自問自答のループ。彼女を既に"大切な物"と認識している自分と、己の立場との葛藤。俺に、どうしろってんだ。
「獄寺君・・・?」
「な、んだ?」
「や、今日何か変だなーって・・・気のせいだったらごめんね」
「や、ちょっと・・・別に、何でもねぇから気にすんな」
あまつさえ、気まで使わせてしまった。情けなさ過ぎる、俺。
そんな寂しそうな、悲しそうな顔をして欲しいわけじゃない。いつだって、お前には笑ってて欲しいんだよ。
「てぃっ」
「ぅあ!?」
その瞬間、右手に広がる温かい温度。ひらひら、ひらひら舞っていた小さな手の平は、俺の右手としっかり繋がれている。
「私さ、方向音痴だから昔よく迷子になっててね、ママとかパパがこうやって、見付けてくれた時、ぎゅって握ってくれるの、安心出来て好きだったんだ」
「・・・俺、別に道に迷ってねーけど」
今は、単なる帰路だ。毎日通っているここで、迷子になることはない。
「獄寺君の場合はねー・・・頭の中の迷子!どうせまた難しいこと考えてたんでしょ?」
「あー・・・」
肯定も、否定も出来なかった。ちゃちなプライドに邪魔されて、素直に頷くことが出来なかった。
「・・・私は何にも出来ないけど、手、握るくらいならできるから」
「・・・・・・・・・」
「独りで悩まないで」
「・・・・・おぅ」
答えは、簡単なんだ。
"ボンゴレ"も、"十代目"も、この"か弱い女"も、大切な物全部守れるくらい、俺が強くなればいい。
だから、
「離すなよ」
「頼まれても離れないよ」
手
(一生掛けて守ってやるって)
(決めた。今、決めた)
2009.01.19
カヲル様へ 相互記念
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