みんみんみんみん
肌寒い季節の心地良い温度が盗む、青葉の香りが鼻をついた。
もうすぐそこまで、遠くも近くもない記憶に、沈む声の群れが迫ってくる。
「あったかくなったね」
「春ももー終わりだな」
少し肌寒いくらいのこの季節に、繋いだ手は酷く心地良くて、まるで先の事なんてすっかり忘れてしまえそうな程に、温かい。
「隼人」
「・・・・・・・・・」
「・・・と、ツナはどうした、の?」
表情には出さないポーカーフェイスな武の微笑みが、張り付いているだけのものだと解るのは、触れた指先がちょっとだけ、冷たくなったから。
「まだ学校に居んじゃね?先帰ってくれって、言ってたんだよな」
「・・・・・・・・・」
「・・・悪ィ」
張り付いた笑顔から紡ぎ出された言葉が嘘だと解ってしまうのは、触れた手の平にちょっとだけ、汗が滲んだから。
「いいよ、別に」
「・・・・・・・・・」
「・・・あったかくなった、ね」
「もうすぐ夏だな」
遠くも近くも無い記憶から365日回らない今日は、まだ少し、一人で居るのには寒い季節。
365日回った記憶より近い日はすぐそこで、またあの五月蝿い群れがきっと生きた証を私達の鼓膜に刻む。
熱がりな私は今まで避けてきた少し冷たい"彼"の手を、あの季節に触れるだろう。
熱がりな私にとって、武の手じゃ熱すぎて、触れていられないから。
みんみんみんみん
まだ聞こえない彼等の声が、耳の奥で木霊する。
もう少し、もう少しだけ土の中で眠っていて。私の温度に、気付かないで。
「・・・・まだ、春だからな」
「うん」
「まだ、夏じゃない」
「うん」
「・・・・・なんで名前#は獄寺と付き合ってんだろうな」
「私に、武は、あつすぎるんだよ」
きりきり痛む胸の奥に、本当は季節なんて関係の無いまやかしの感情を押し込めて、どっちも大事な私はどっちも選べずに、隠れながらそのあつい手を握っていた。
一つしか繋げないのなら、どうしてかみさまは人間に二つも手を付けたんだろうね。
きりきりと、
そんな幸せ
(ほんとうはわたしのおもいがいちばん あつい んだよ、たけし)
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