甘いココア 甘いコーヒー
甘いミルクティー


一 粒 の 角 砂 糖




「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・御柳君?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・如何したの?」


とある有名私立高校から少し距離を置いたところにある喫茶店。同じ学校の制服を着ている様には到底見えない、背の高い青年と小柄な少女が向かい合って座っている。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


背の高い彼の前にはブラックコーヒー。小柄な彼女の前には大きな苺パフェとホットココア。


誰から見ても矛盾している空気の連結。しかし、妙に不自然な感じはしなくて。


「名前?」

「え、何?」


ようやく口を開いた背の高い彼に、名前と呼ばれたもう片方の少女は多少戸惑いを見せる。
入店してから不思議と威圧感を放っているその男。彼の声に、周りの客も少し身体が強張ったように見えた。


「お前さ、何でんな甘ったりぃモンばっか食って気持ち悪くなんねーの?」

「いや、あの・・・好きだから・・・・かな?」

「へぇ・・・・」


『自分で聞いといてそんな返事かよ!?』周りの客はそう思ったに違いない。表情には出さないが、みんな確かに目がそう言っている。


「なぁ、此れ飲んでみろよ」


彼が差し出したのは、先程まで自分が口をつけていたブラックコーヒー。


「う、うん・・・・・」


名前という少女は逆らいもせず、躊躇無くそのカップへ口を近づけた。


「あつっ!・・・苦ッ!!」


それは当たり前の反応で。少女が鼻に皺を寄せてもがいていると、背の高い彼はさも嬉しそうに笑い始めた。


「あははは!お前マジさいこー!」


あまりに無防備なその笑顔に、周りの女性客の顔が紅潮し、共に来ていた彼氏の顔が濁る。


「な、何で笑うの〜!!!」


少女は顔を赤らめ、涙目で笑いを止めない彼へと講義する。
その顔は下手な女優よりも数倍可愛くて、今度は男性客が目を見張った。


「だってよ・・・・っぷ・・お前、面白過ぎ!」

「ひろいよ〜・・・・・」


火傷でもしたのか、名前と言う少女は呂律が回っていない。




和やかに、穏やかに自分の空間を展開する二人。
その世界に客も、店員でさえも飲み込まれて行く。


甘い、甘い、
その角砂糖のような世界に。




気づけば少女はパフェを食べ終わり、青年も二杯目のコーヒーを飲み終えていた。


「じゃぁ、そろそろ出っかー」

「そだね」


その一言に、観客と化した周囲もはっと我の世界へ帰る。


会計レジへと近づいてくる彼等に、僕は何故か緊張した。
まるで芸能人に声をかけられる気分だ。


「せ、1890円になります!」


言葉が詰まってしまった。そんな僕を気にする様子も無く、背の高い彼はポケットから財布を出す。


「え!?御柳君!いいよ!自分のお金くらい・・・」

「名前には今晩頑張って貰うから気にすんな」

「っえ゙・・・!?」


不敵な笑みを浮かべ、何事もなかったように、価格丁度のお金を置いて店を出て行く彼。少女は一瞬固まったあと、「ご馳走さまでした」と一言残し、慌ててその後を追いかけた。丁寧な挨拶は、その少女の性格の良さを物語っている。


追いついた彼女と、そのペースに合わせてゆっくりと歩幅を縮める彼。並んで歩くアンバランスな背丈が、妙に愛しく見えた。


散々店長に教わった“営業スマイル+元気な挨拶”も忘れ、


『もう一回来てくれないかな』


そう節に願い、今日もバイトに性を出す僕だった。






「なぁ?」

「なに?御柳君」

「さっきの店さぁ、変じゃなかった?」

「そうかな?別に普通だったけど・・・・」

「・・・・・そっか」



「あ、それより」

「へ?」


何を見つけたのか、名前へと急に顔を近づける芭唐。


「・・・・・・っ!?」


芭唐にペロリと頬を舐められ、名前は紅潮し、手を舐められた頬へとあてがった。


「なっ!なっ!?」

「うっわ、すげー甘ェ・・・・・お前、もう甘い物食うな」

「え!?何ソレ!?」

「ほい、バブリシャスしとらすそーだ」

「え?あ、ありがとう」

「名前の味はそれだけでいいんよ」




甘い世界 甘い香り
君の世界は角砂糖
ボクと交じり合い、溶けて行く

Lump and Black Coffee





2004年頃に書いた物のリメイク
2012.05.15 再アップ





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