――拝啓、聞こえているでしょうか?
君 と い た 季 節
・・・何て、敬語はやっぱ柄じゃねぇや。 「似合わない」だの「気持ち悪い」だの、テメェの文句が聞こえてきそうだ。
なぁ・・・俺さ、華武になんて決めないで、お前と同じ学校、行ってりゃよかったかな。 だって、一ヶ月前の話だなんて聞いても、全然実感沸かねーんよ。
もう会えないとか、信じらんね。
つい、最近だぜ? 携帯の画像フォルダ漁ってて、何か懐かしくて、待ちうけ変更したの。 お前は俺の待ちうけで笑ってるのに、もう居ないなんて、意味解んねーよ。
白い肌に黒目がちの目が可愛かったと思う。言わなかったけど。 ちょっと低めな鼻が、チャームポイントで、近づいたら目を合わせないのも、お前の癖だった。
笑えるっしょ。 離れてりゃ鬱陶しいくらい付き纏ってくんのによ、わざわざ近づいてやったら、目逸らして。恥ずかしがりなのか、構って欲しがりなのか、どっちかにすれっつーんだ。
小学ん時は、俺以外懐かなくて、一日会えなかっただけですごいくっついてきたんだぜ?覚えてるか?周りに散々笑われた俺の身にもなってみろよ、なんて言ったら、笑ってたっけ。
中学上がったらクラスも別れて、せーせーしたとは思わなかったけど、ごめん、少し忘れてたんよ。 だからお前もさ、俺の事もすっかり忘れて楽しんでんだろーな、とか思ったら、久々にお前のクラスに行った時、俺が来たことに一番最初に気付いたのはお前だったよな。 ぶっちゃけ、照れくさいけど、何かすっげー嬉しくて。 絶対忘れられてるって思ってたから、覚えていてくれたことが本当に、嬉しかったんだ。
寂しがりやなくせに、どうして一人でいっちまうんだよ。 俺がいないと駄目なくせに、何で置いてったわけ。
ずっとずっと居るなんて思ってなんかなかったけど、それでも、早ぇよ。 俺らまだ十六っしょ?まだまださ、これからなんじゃねーの?
俺さ、華武の野球部で四番エース張ってるんよ。
・・・まぁ、俺だし、当たり前だけどな。 中学ん時、高校離れるってわかって、言ったじゃん。 「お前の居る観客席までホームランボール飛ばしてやっから、大事にしとけ」ってさ。 したらお前も笑って 「うん、一生の宝物にする」 とかさ、流石に一生とかどんだけ?って、笑ったけど。休みも部活で会えねーし、次会う時は甲子園会場だって、約束したじゃん? 勝利持って帰って来た俺に、また鬱陶しいくらい纏わりついてくんだろ?
なぁ、もう会えないなんて信じたくねーよ。 今でも俺の気配察して、「芭唐!」なんて叫んで。
なぁ、名前。 もうすぐやっと甲子園だから、お前ん家行くって言ってたんよ。 約束覚えてるか確認しに、予定開けとけって、言いに行くつもりだったんだ。
こんなことで来たいなんて、微塵も思ってなかったんだぜ?
中学から家までの帰り道で、なんかよくわかんねーけど、お前競争とか勝手にしだして。 面倒くさい俺は、絶対マジでなんか走んなかった。したらお前は、やっぱ怒って。 俺がマジで走ったら結果は見えてんのに、強要する意味はなんだったんだよ? 実は結構、負けず嫌いなくせしてさ。
なぁ、「嘘だよ」「なにひっかかってやんの」って、言えよ。 今なら拳骨一発で、許してやっから。
なぁ、もう、信じらんねーし、実感ねーし、お前は待ちうけで俺と笑ってるし。
今度は絶対、マジで走ってやるから。 華武のエースだぜ?お前なんかに負けるわけねーし。
また二人で、くだらねぇかけっこしようや。
なぁ、名前。
(笑って、いつもみたいに、俺の名前を呼んでくれよ) (笑った顔のまま動かないお前じゃ、物足りねーんだよ)
(物足りなさ過ぎて、涙が、とまんねーんだ、よ)
2006.xx.xx 大切な七年間を、絵里へ。今でも、これからも、大好きだよ。
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