寂しいなって想う感情とはちょっと違う気がした。

空っぽというのか、虚無感というのか、こんなにも違和感はあるのに此処には何も無いんだ。
どんどん夕焼けに紛れて行く部屋は少し薄暗くて、でも電気をつけたらこの感情が全部なくなってしまいそうで嫌だった。ぼんやりと窓辺から眺める夕焼けは、山じゃなくてビルの間に沈んでいく。山なんて、見えやしない。おばあちゃんの田舎に行けばもういらないってくらいの山が沢山見えるのに、此処には何も無い。この街は私と一緒なのかもなぁ。なんて、自分が都会っこ!とか自慢してるわけじゃないんだけど。(だって私は田舎の方がすきだ)


「田舎に行きたいよ」

「この間の休みに行ったばっかりじゃなかった?」

「そうなんだけど、ちょっとね。縁側で日向ぼっこがしたいんだよ」


贅沢な悩みだね。

なんて、馬鹿にしたような声で言った割りに、恭弥は全然笑ってない。いつもならもっとこう、鼻に掛かけて嘲笑うような顔をしてる筈の恭弥が、真顔でビックリした。(でも真顔はかっこいい)(なんて、げんきんだ私)(・・・)
夕暮れに映える、恭弥の艶めいた黒髪。思春期の象徴であるにきびとか、そういう単語を、きっとこのすべすべしたしろい肌を持つ恭弥のDNAは知らないんだ。花も恥らう乙女の私は、羨ましいと思う反面、どこかでその虚無感が肥大していくのをひしひしと感じている。


「ねぇ、恭弥。明日は応接室に一日中いてもいい?」

「僕は帰るよ」

「え、そりゃ私も帰るし。泊まるとかいう意味合いではなくね、」

「うん。だから、僕の家に来ればいいでしょ」


そんなの一言も言ってないよ!とか、突っ込みたかったけど、止めた。
この人はこういう所が凄く不器用で、でも、優しいから。だからきっと、私はこの人が大好きで、迷惑だってわかってたって寄り添ってしまうんだ。


「そうだねー。恭弥の家がいちばんいいなぁ」

「・・・・・名前」

「んー?」

「泣きたいなら、泣けば」


そう言った恭弥へ振り向いたら、さっきよりもっと真剣な顔をしていた。
何だか私より辛そうな顔をしているのは、気のせいじゃないんだろう。私の辛さも弱さも全部恭弥は知ってるから。見抜かれてしまうから、弱さは見せなくとも辛さだけは彼が担ってくれるんだ。


「・・・恭弥」


ごめんね、と、呟いた言葉が恭弥の黒にしみこんで消えた。


離せなくてごめんね。
辛くさせてごめんね。
泣いてごめんね。
役立たずでごめんね。


夕焼けに映える黒髪も、にきびを知らない白い肌も、不器用な優しさも、私を支えてくれる恭弥の全部、全部を


遺せなくて、ごめんね。


じくじくと痛む違和感はあるのに、私はその意味を失ってしまった。
当たり前の未来が当たり前じゃない事に、気付いてしまった。


それでも、「名前が居てくれればいい」なんて言ってくれる恭弥を、私はきっと一生はなせないんだと思う。

せめてその幸せな未来予想図の一部に、恭弥がいてくれたなら、私は生きていけると思った。




弱音さえ人任せの弱虫な私と

未来を、どうか


下腹部でじくじくと存在を訴える私の臓器は、あなたのDNAを遺す責務を果たせなくなってしまった。




2010.12.15



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