01
突然やってきた少女。年は新兵達とそう変わらないが、同年代の女子達よりもはるかに弱弱しいその少女に年若い男達は密かに思いを寄せるのは自然の摂理だろう。
筋肉もなく白く柔らかな弾力のあるもち肌を晒し、着せられた兵士の制服は華奢すぎてぶかぶかだった。
手も小さく腕も折れそうな程細い、背も小さく一見すれば訓練兵たちよりも幼い外見の割に、少女の身体は同僚の女達の誰よりも大人だった。
女性特有の肉付き。丸みを帯びて柔らかそうな肉の塊が少女が女性という事を主張していた。
細い身体に大きな胸、加えて幼い顔立ちに小さな背丈。しかしその華奢な身体に似合わぬ大きな胸。大事な事なので何度も言うが、少女は胸が大きかった。
兵士なのだから仕方ないとはいえ、脂肪より筋肉の多い同僚の女性達よりは遥かに魅力的だった。

男として雄の本能が反応してしまうのは、最早必然だった。

たとえ少女が未だに幼い少女であろうと、どんなに年が離れていようと、関係なかった。
彼女が人類最強の兵士長に首輪を付けられ虐げられそれに涙目ながらに反抗している姿は中々に見物だった。しかし他の人間に頼る時彼女は女としての最大の武器を使って甘えてくるのだから始末におけない。
背が小さい故に自然と上目使いになってしまうのは仕方ないが、そうして彼女を見下ろすとどうしても豊満な胸に視線がいってしまう。
これほど、このベルトで締め上げる兵士特有の制服を恨んだ事はない。
あたかもその胸を強調する形で少女の華奢な身体を締め上げ、しかし胸はより強くその存在を主張した。
それを目の当たりにした男達は、ある者は鼻を押さえ、ある者は下半身を抑え、その場を全速力で立ち去った。
そして、それを吐きだすのは夜も深まった深夜。
誰もいなくなった食堂の隅で今宵も開かれる「今日のなまえちゃんの可愛さとエロさについて」の会であった。



なまえは知っていた。自分の身体が男にとってすさまじいギャップ萌えということに。
確かに統計学的に見てもこの身長でこの胸の大きさは常々おかしいと感じていた。しかしだからといって一度膨らんでしまったものはしぼむ事も無く、日に日に大きさを増していくそれにわずかながらも幼い頃はコンプレックスを抱いていた。
この胸のせいで男達から視線を絶えず集める事も、もちろんこちらの世界に来る前から知っていた。
おかげで痴漢やストーカーに頻繁に会うし、変質者だって何度も遭遇した。
だからといってこの胸がしぼむ事はない訳で、ならばこうした異常な日常に対応していくしかなかった。
満員のバスには乗らないしストーカーにあったらすぐに警察に相談した。変質者にいつでも会っていいようにカバンにはつねに防犯ブザーを持って歩いた。

そうだ、だからもう、こんな事は慣れっこだ。

「なまえ、なにしてやがる。」
「…!!!びっくりした…リヴァイさんですか、こんばんわ」

眠れなくてホットミルクでも飲もうかと食堂に立ち寄ればなにやら男達が集まっていた。物々しい雰囲気に聞き耳を立てていれば、幾度となくクラスの男子達が離していた内容が聞こえてきた。
内心うんざりしつつ、さてどうやって中に入ろうかと思案していると、棘を含んだ声が背後から刺さった。
足音もなにもさせず気配も感じ取れなかったというのに至近距離で聞こえた声に大袈裟に肩を震わせる。
振り返れば暗闇の中で不機嫌そうに立つリヴァイさんがそこにいれ、これはこれで軽くホラー映像だと思いつつ、とりあえず挨拶をした。

「で?なにやってんだ、こんな夜遅くに。」
「あ、えーっと…リヴァイさんは?」
「見てわかんだろうが、徹夜で資料しあげるためにコーヒー煎れに来たんだ。」

ああ、大方ハンジさんのせいなんだろうな、と検討をつける。

「うーんでも、今入るのは結構まずいんじゃないかなーっと…」
「あ?」
「いやぁ…ほら、あれ、」

楽しそうにオカズの話で盛り上がってますし、と言葉を付け加えそちらを示す。
指し示す手の先に数名の兵士を捕え、そして聞こえてきた会話の内容にリヴァイさんは更に機嫌を悪くした。



頭の中だけなら大丈夫だと、そう思ったのが甘かった。
少女がどんなに愛らしく厭らしい女だったとして、それがどうしたというのだ。
少女の首に付けられた存在を主張している首輪が、少女が人類最強の所有物だと強く主張していたのに。
今更後悔しても遅い。
全員が心の中で死を悟った。

「誰が、あれに手を出していいといった?」
「……」
「あれは誰のものか、お前達も理解しているだろう?」

震える声ではい、とうなずく。
その暗く重たい雰囲気を遮るように、少女のふわりとした柔らかい声が兵長を止めた。

「まぁまぁ、リヴァイさん私全然気にしてないですから。慣れっこですし、正直。」
「…お前はそれでいいのか。」
「いいですって本当に大丈夫です。慣れてますから、この程度。」

困ったようになまえは笑う。こんなものいつもの事なのだから気にする必要はない、と。
その笑顔が本当になんでもないと言って、それよりもこんな事のために怒られる彼らの方が可哀想だと、そう訴えていて、リヴァイは舌打ちを一つうった。
その音に縮こまっていた男達はびくりと震え、それを一瞥し、そして大きく溜息を吐いた。

「なまえは俺のものだと、お前達は理解しているな?」
「はいっ…!!!!」
「そうか…なら、今後一切あいつの事は考えるな、気にするな、想像するな。誰の脳にいようとなまえという人間の所有権はすべて俺にある。もし少しでも考えたら、そうだな…」

お前達の脳からなまえの部分だけ削いでやる。

暗い暗い色を写した瞳がそう告げ、それが本気だと理解する。
脳が警鐘を訴え、がくがくと震える身体が何とか一度頷く。

「リヴァイさん!それはまずい!!人権問題ですよそれ!!!」
「うるせぇ、お前の決定権は全て俺にあるって何度も言ってんだろうが。」
「私のじゃなくてその人たちのですってば!考えるくらい許してあげてもいいじゃないですかっ!!」

まるでこの雰囲気を理解できていないような明るい声がリヴァイを攻める。
なまえは慣れっこだが、リヴァイはそうではないと、なまえは気づいていない。
自分の知らぬ間に自分の所有物がたとえ他人の脳内であろうと汚されたという事実を、リヴァイは許せるほど心が広くない。
なまえの言葉を受け、そして視線をまた兵士に向ける。
そして口端が歪む。

「お前らは、心臓を捧げたんだろう?」

心臓を捧げた人間に、考えることなど無用だと、そう言わんばかりの歪んだ表情を貼り付け、そう問いかける。
悲鳴をあげそうな喉を必死に抑え、なんとか右手を左胸にもっていくとその態度に満足したのか、退室を命令された。
もつれそうになる足をなんとか動かし素早く食堂を後にする。確実に寿命が三十年は縮まったと、皆冷や汗をかきながら自室に戻った。


もうなまえを見る事も思う事もできなくなった哀れな男達の背中が、夜の闇に消えていくのを確認し、リヴァイはなまえを見る。

「お前のその身体も考えもんだな…」

その呟きに小さく首を傾ける。
わかっていないという顔のなまえに溜息を一つ吐く。なまえには躾と自覚が足りないと、そう結論付け、さてどうするか、とこれからなまえにする仕打ちを頭の中で計画を着々と立てるリヴァイであった。
そんなリヴァイには気づかずリヴァイの手からマグカップを取って暢気にコーヒーを煎れるなまえ。

にげろ、その男は危ないぞ。

そんな事を言う人間はこの世界にもいない。警察だってその男には叶わない。どんなに元の世界で変質者やストーカーに気を付けていても、この世界において所有権を有する者がその人種だった場合どうにもならないのだ、と。
いまだなまえがその残酷な事実に気付いていないという事が幸いしていると、誰かがそう呟いた。




bkm
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