01
世のカップルという存在がどんな風にイチャイチャするのか、興味が湧かない訳でもない。
しかし私の周りには絶望的に恋人持ちがいないためそういう話をしようものなら恰好の世間話のネタにされる事間違いなしである。

女というものは噂話や恋愛話が好きと、最早遺伝子レベルで証明されている。その証拠に最近また顔を出すようになった女性死神協会で離されるネタといえば運営については二割で、ほか八割は男女の噂話やどこの隊の新入隊員がかっこいいだの、そういうものばかりな気がする。
だから、乱菊や雛森ちゃんには絶対に相談できない。相談したら最後根ほり葉ほり聞かれるに決まっている。キスだけで精いっぱいの私の脳内許容範囲を簡単に限界値超えるレベルの会話をされるに決まっている。

だからといってひよ里もダメだ。未だに私の趣味を疑われている。まぁ確かに私も中々どうして真子を選んだのか謎でもあるが、それでもずっと求めていた事は事実だからしょうがない。こうなったらなったでそれなりに幸せもいっぱい与えてもらっているのだが、さすがにひよりにそれは理解できないししてもらっても困る。
リサちゃんも駄目だろうなぁ…白ちんも、無理だ、精神年齢はきっと私以下。
じゃあ、誰に相談するか、なんて。そんなのもう目の前の男しかいない。

「真子?」
「アー?なんや?」

仕事中、いつものように仲良く並んで仕事をしていた時、ふと横を見ればいつもの気の抜けた顔を少し引き締めて書類に向かう横顔がちらりと視界の端に映り込む。
びく、と小さく肩を揺らして不自然な程に自然体を取り繕うとするが、胸の動悸は収まらない。
かっこいいなんて思ったことはあんまりない。頼りになるとは思うけど、でもやっぱり真剣な顔っていいなとか考えて、そんな不純な事ばかり考えてたら集中力が切れてしまった。
しかし今日のサボりカードは午前中に切ってしまいおやつも先ほど食べ終わった。雛森ちゃんが般若を背後に浮かべ、午後はしっかり仕事してくださいと釘を刺されてしまえば、私達二人に逃げ出すという選択肢はなくなってしまった。
まぁそこまで難しい書類ではないから少し本気出せば終わるような仕事なのだから数時間の間、黙々と会話もなくそれなりに真面目に出来ていたはずなのだが。

ああ、でも、完全にそれを崩されてしまった。

かっこいい、なんて思ったことないのに。女はやはりギャップに弱いらしい。
こうなってしまったのは真子の所為なのだから、ここはやはり本人に責任を取ってもらうのが妥当というものだろう。
そう、身勝手な理由をつけ、名前を呼ぶ。
問いかけに視線だけこちらに向け、その目がこちらを捕えると、弱弱しく袖を引っ張る。赤くなった顔を隠す事もせず、少しだけ潤んだ瞳で真子を見上げ、無意識に震える声で言葉を発する。

「真子見てたらドキドキしたから、なんとかして…」

好きな人を見てドキドキしてしまった対処法なんて、私は知らない。誰かに聞こうにも誰も恋愛している人間が知人にいないため、できない。唯一恋人持ちな人間といえば目の前にいるこの男くらいなのだから。
言葉を発すると、真子はわずかに目を見開いて、数秒たった後、大きなため息をついた。
ぽん、と軽く手を頭に乗せられて、ゆっくりと髪を梳くように撫でられる。それが気持ちよくてわずかに目を細めその感触を堪能すると、さて、と口を開く。

「なんとかって、なにしてほしいんや…それにもよるわ。」
「真子は私見てドキドキしないの?ドキドキしたらどうしたくなる?」
「アー…なんやの、急にお前…」
「だって私恋愛したことないし、私の周りはみんな恋愛してないから、こうなった時の対処法わかんないから、教えて。」

悪びれもなく答えると、ほんまアホやな、と溜息まじりにそう言われた。
アホとはなんだ。そう反論しようと口を開くと、その口をがぶり、と噛みつくように塞がれた。
互いの唇の隙間から息が漏れ、吐息と同時にすぐに解放される。

「あんま可愛いこと言うなや…抑えれへんようになるやろが。」
「……キスしてほしいなんて言ってない。」
「あれはキスしろ、いうとるもんや。」
「余計ドキドキしてる…心臓止まんないじゃん。」

頭を撫でていた手はいつの間にか後頭部にまわり、そしてまた強く引き寄せ唇を食べられた。
その感触に目を瞑って、黙って行為を受け入れる。
最後に小さな音を立て、唇を離される。その音がとても厭らしくて心臓はまた早く動き出す。

「止めて欲しいならいつでも止めたるわ。ええから、大人しくせい…」
「…んっ、」

漏れる声がなんとも厭らしくて、溢れる吐息が恥ずかしくて、無意識に息を止めてしまう。
どうやら真子に相談すると、キスだけで精いっぱいの私の脳内許容範囲を簡単に限界値超えるレベルの行為を実践付きで実行されるらしい。
恋愛初心者に誰か優しく指南してくれる人はどこかにいないだろうか、と酸素の回らない頭でぼんやりと考えた。




bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -