05
え、今更?っていうかまだ付き合ってなかったの、マジで。そんな呆れた顔をされながらも交際を祝福してついでのようにからかってきたハンジを蹴り飛ばしたのはつい最近の事だった。
呆れた理由を聞けば、二人はもう何年も前から付き合っていたと、ハンジはもちろん周りの人間もそう思っていたらしい。空き時間さえできれば町へ出かけていれば確かにそう見えるかもしれない、と確かに今更ながら理由を聞き自分でも納得した。
忙しい合間を縫って時間を作り、逢瀬を交わして、彼女の手料理を振る舞われ、壁外へ赴くたびに身を案じ。ああ、確かに、付き合う前も付き合った後もさして変わりはないものだと、リヴァイはようやく自覚した。
自覚する前から、無意識に、本能で、自分の全てが、彼女を、なまえを求めていたのだと、自覚した。

「同じことを、私もお手伝いの女の子と常連のおじさまに言われてしまいました。」
「ほう…なんて言われたんだ?」
「やっと付き合ったんですね、と。呆れられましたが、最後には祝福してくださいました。おめでとう、って。」

幸福だと全身で感じ、その幸福に頬を染める。緩ませ、わずかに熱を持つ頬に手を添え、幸福を噛みしめる。そんななまえをリヴァイは自覚した感情でこう表現するのだ。
可愛らしい、と。
丁寧で誰にでも平等で、優しく料理も美味い。しかしか弱いだけではなく強く、しっかりと芯が通った、女性。そんな印象をずっと持ち続けていたのだ。そこに可愛らしい、愛らしいという欲のついた色はなかったというのに、自覚してしまえば男の本能とは実に単純だ。
以前までならば例えなまえが頬を染め照れていても、そうか、よかったな。その程度の印象しかなかったであろうに、
今となってはそのような客観的な反応を返すことは難しい。なまえを見る目すべてに欲という色がついてしまうのだ。

「しあわせです、私。リヴァイ様のおかげですね。」

頬の熱を取るために、自身の掌をなまえの頬へ滑らせる。
じわりと掌から伝わる熱が自分の熱によって冷めて言っているのを感じながら、しかしなまえを可愛らしいと感じた欲は冷めることなく寧ろ高ぶっていっている。
リヴァイの冷たい掌が気持ちいのかなまえはその手に自身の手を添えて、熱を奪い取る手に頬を摺り寄せる。
幸せと、蕩けるように口から漏れ出る。とろとろ、止める事は出来ずに溢れていく。

「ふふ…お慕いしていたリヴァイ様に思っていただけて、同じ気持ちが通じて。そんな私達をおめでとうと、祝福もして頂いて…ねぇ、私がリヴァイ様に贈ってくださった想いと祝福を、私と同じように感じていると、信じてもいいですよね?」
「ああ…当然だ、なまえ。お前がいなければ自覚すら出来なかったものだ。」
「ふふ、同じですね。お揃いです、私達。」

自覚などしていなかった。そう、ただ、きっと最初から求めていた。お互いを。



しかし、リヴァイとなまえの間にはわずかなズレがある。そしてそれをなまえは自覚しておらず、リヴァイはそれを認識していた。

「なぁ、なまえ?」
「はい?」

頬を撫でていた手をゆっくりと滑らして、つややかな髪を何度か撫でる。それを気持ちよさそうに享受していたなまえに言葉をかけると、閉じていた目蓋をゆっくりと開ける。
なまえの大きな瞳がリヴァイの姿を捕える。真っ直ぐと見つめてくる瞳には、欲がない。
その眼差しを受けてリヴァイは口端をわずかに歪める。そして髪を撫でていた手をゆっくりと後頭部へと回し、反対の手をなまえの腰へ絡め逃げられぬように強い力で引き寄せ距離を縮める。
いつもより格段に近くなった距離に頬だけでなく顔全体を赤く染め上げるなまえに、なるべく優しく蕩けるような声音で語りかける。

「俺たちは、恋人、だな?」
「あ…、はい。そうです、恋人、です。」

リヴァイの問いに戸惑いながらも頷く。そして自覚させる。
そうだ。店員と客という立場でもなければ、兵士と一般人でもない。友人でも家族でも常連客でもない、世界でただ一人しかその関係を持つことはできない。
たった一人、リヴァイにだけ許された行為。

「なら、この唇に触れても問題ないな?」

親指で僅かに開いた唇をなぞる。熱い吐息を詰まらせ、なぞる感触に身体を固くさせる。

「…っ、」
「いいよな?なまえ?」

恋人という関係に進展してから欲が出てきた。そして、自覚もした。
今までは無意識に、本能で、自分の全てが求めていたという事をリヴァイは自覚したのだ。意識のしていないという制限された場所で行われていた感情の抑制を、自覚という感情がその枷を外したのだ。
ならばどうだ。枷の外れた男など、理性というものなどで抑え込むことなど不可能と言ってもいい。
そして、二人の関係性はお互いが認可したもので、この世界でお互いがお互いだけに何をしても全てが許される。欲など抑え込まずとも、触れたければ触れても構わない。顔を赤くしながらも、リヴァイならばと受け入れるに決まっている。
なまえにはその欲が、いまだ顕著に表れていなかった。しかしリヴァイはそれを抑え込むことはできない。これが二人のズレ。

戸惑い羞恥と困惑に瞳を揺らしながら、なんと返事をしようか迷うなまえを尻目に、我慢が聞かずリヴァイは顔を寄せる。
一度大きく震える小さな身体を逃がすまいと腰を抱く手に力を込めながら、鼻で前髪を掻き分けて現れた額を唇で撫でる。そのまま流れるように眉間へと滑らせて、震えるまつ毛を撫でてやる。

「なぁ、なまえ?」
「……、」

名を呼ぶ。それに答えるように閉じていた目蓋をゆっくりと開ける。
なまえの大きな瞳がリヴァイを捕える。その瞳は羞恥と戸惑いと、そしてどこか期待に染まっている。欲が、蕩けるように溢れていた。
なまえの手が控えめにジャケットを引き寄せる。欲に塗れた瞳を再び閉じながら、詰めていた息をゆっくりと吐きだす。
それを合図に、口端を歪めながら再び顔を寄せる。腰を引き寄せ、後頭部に手を回し逃げ道を無くしながら、熱い吐息を混じりあわせ始めて触れる柔らかな感触を堪能した。


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本編の最後はこんな感じにならない予定ですが、IFと言う事でひとつ!




bkm
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