10
子供も寝つき、お風呂も入り、そろそろ寝ようかという遅い時間。
お風呂から上がってリビングに向かうと、ソファで一人缶ビールを飲んでぼんやりとテレビを見るリヴァイさんがいた。

「ああ、来たか…」
「もしかして待ってました?」
「まぁな…」

こっちにこい、と言うように真ん中に陣取っていたソファの端による。
勧められるまま空いた場所に座ると手に持っていたドライヤーを奪い取られた。
コンセントを刺して、スイッチを入れるといまだしっとりと濡れる髪に触れる。

「わぁ…ありがとうございます。」
「なまえはドライヤー下手糞だから、自分でやらせたらいつまでたっても終わらねぇからな…」
「……ドライヤーに下手とか上手とかないです…」
「いや、下手だろう。」

確かにいつも自分で乾かすと、毛先だけしか乾かなくて後頭部あたりはいつもしっとり濡れているけれど、そういうのは大抵自然乾燥で乾かしてるから問題ないのだ。お風呂から上がっても色々やることはいっぱいあるのだからと文句を言えば、風邪でも引いたらどうする、という正論で一蹴された。
若干頬を膨らませながらも、確かに手際よくドライヤーの冷風をあてていく。



「もうすぐ入学式ですね…」

ふ、と漏らした声がやけに響いた気がした。
そうだな、と後ろのリヴァイも静かに同意した。

「……寂しいです。」
「同じことを幼稚園の入園時にも言っていたな。」
「そうでしたっけ?」
「ああ…あの頃は四六時中一緒だったから特に嫌がっていたな。」

確かに、そういえばそうだった。あの頃は毎日24時間息子の世話をしていて、可愛い我が子の世話をするのが趣味であり生き甲斐みたいな状態になっていた。しかし私には休学していた大学の勉強などもあり、いつまでも両親の世話になってばかりではいけないと、リヴァイが幼稚園に入れようと言い出したのだ。
私と私の母は反対したが、人間関係や集団生活など、幼稚園に入れる事は決して悪いことではないと説得されたと。そんな事を思い出した。
確かにそのおかげで私の勉強する時間も取れて、主婦でも妻でも母でもない、学生としての私の生活もできたから結果的には良かったのだが。

「いい加減お前も子離れしろ。」
「だって…リヴァイさんは寂しくないんですか?」
「俺は…まぁ、教師だからな。」

子供が成長するのを見るのは楽しいと、そう告げた。
小学校に行き、中学校をあがって、もしかしたら高校の物理はリヴァイさんが直接教鞭を振るうかもしれないと。確かにそう考えるとわくわくするかもしれない。
育っていく息子を見るのはとても楽しい。最初は言葉も喋れなかったのに、今は元気に私を呼んで駆け寄って抱き着いてくる。両手で抱き上げていろんなところに連れて歩いて一緒にお散歩していたのに、今や私の手を引いてあちらこちらへ連れて行ってくれる。
父であるリヴァイさんの教育により、お母さんは護る者、と教えられているせいか私に対してはどこまでも優しい子に育ってくれた。
息子が生まれて五年と少し。たった五年だけなのに、こんなに思い出がいっぱいある。

「まぁそれも、母親が面倒見のいいおかげだな、なまえ?」
「いえいえ、父親の教育がいいおかげですよ、リヴァイさん?」

そんな風に談笑していると、どうやら髪を乾かし終わったらしい。自分でやるより遥かに早く終わり、関心しつつ一房掴むとしっとり感は無くなりサラリと手から零れ落ちた。
ドライヤーを放り投げ、飲みかけの残り少ないビールを一気に煽って飲みきると、そのままキッチンへと向かう。その背中を見送って、ドライヤーのコードを巻き取り片付ていると、いつの間にか傍らに立っていたリヴァイさんを見上げると、静かに笑ってくれた。

「寝室いくぞ。」
「はい。これ片付けてくるので先に行っ…ひゃ!!」

全て言う前に抱き上げられた。その拍子にソファの上にドライヤーが落ちてしまったがそんなもの気にする風もなく、スタスタと迷いない足取りで寝室へ向かう。
器用に片手でドアを開けて、足で閉めるとそのまま部屋の真ん中にあるダブルベッドに静かに降ろされる。
一体なんなんだと抗議をしようと顔をあげると、それを阻止するように肩を押され柔らかなベッドに身体を強制的に沈められる。

「な、なに…」
「ああ、怖がらなくてもいいぞ……相談だ、なまえ」

顔を寄せて耳から直接声を送る。

「もう一人欲しくないか?」

ぴくり、と肩が震える。意味を理解すると、途端に顔に熱が集まる。

「弟でも妹でもいいな?どちらもお前に似れば可愛らしい子供になるだろうな、なまえ?」
「あ、の…でも、」
「ああ、金なら気にしなくてもいいだろ?どこかの出来る妻が家計をやりくりして貯蓄もあるし、俺もまだまだ働けるからな…」
「う…、でも、えっと…」
「お前が声を抑えれば、隣の部屋で寝ている子には聞こえないだろう?なぁ?なまえ…」

なにか言葉を発しようとしても、その先を予測して全て潰されていく。
逃げ道に先回りされてそのまま捕えられてしまう、そんな感覚に陥る。

「あ、の…」
「なんだ?」

ああ、もう、どうにでもなれ。

「……っ、もうひとり…、わたしに、…授けてくれますか…?」

その言葉を聞いてリヴァイは頬を緩めて口端をあげた。
そして、そのままどこか期待を映す瞳にゆっくり閉じて、わずかに開かれた唇へと口付けた。




bkm
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