02
普段からあまり感情を表にする事のない人間だと、そう認識している。
それはきっと虐げられながら育ってきた環境故の所為なのだろう。いらないと、生まれてこなければ、なんて言われ続け泣く事も怒ることも笑う事も楽しむ事も、何もかも望まれていなかったと。息をする事すら、存在する事すら煩わしいと、そんな風に育ったのだと感情の籠らない声で話していた。
だが、特にそれを憐れんだりはしない。そんな人間、地下街には掃いて捨てる程いた。

それと同時につまらないとも思った。

たまには顔を赤くして、恥じらう素振りでも見せてくれないものかと、なまえの唇を貪りながら考える。
触れようと手を伸ばせば黙って受け入れる。頬に手が触れる瞬間、なまえの目がわずかに伏せ、そして諦めたように目を閉じる。その顔が気にくわなくて、意地でもこの顔を苦痛と快楽に歪めてやりたいと思いながら強引に後頭部を引き寄せ口づける。

「…ぅ、…ふあっ、」
「…ん、なまえ…」
「ぁ…なん、ですか…?」

あまり行為を早急すぎると呼吸する事を忘れる、この癖は治らないものかとたまに思う。
息をする事すら支配している感覚は優越感に浸れて気持ちがいいが、あまりにも毎回されてしまうと気分も萎える事もある。我儘なものだな、と自分の考えに苦笑し、そしてまた息が乱れてきたなまえに今度は呼吸まじりのキスを送る。

舌を絡めない、息だけのキスをすると、なまえの肩は大きく震える。
膝の上で自分のスカートを皺になるくらい強く握るその拳に触れ、ゆっくりと緊張をほぐす。背に手を回し宥めるように何度か撫で、ついでに下着のホックも外しておく。だんだんと治ってきた呼吸に最後は後頭部を何度か撫で、そして音を立てて唇を離すと、小さく細く一息を漏らし、ふう、と息を吐く。
先ほどよりは赤く染まった頬を撫で、濡れた唇をそっと撫でる。
閉じていた目をゆっくりとひらき、そしてこちらを見上げる。大きな目がわずかに潤んで、その瞳の奥に僅かだが快楽の色が滲んでいる。
こうして、少しずつ、感情のない人形みたいななまえの顔が、俺の手で羞恥と快楽の色に染まっていくのが行為をする醍醐味なのだ。

すると、ずっとなまえ見つめていたの瞳がわずかに色を変える。
おそるおそる、手が伸ばされ、リヴァイのシャツを控えめに掴むと、腰を浮かし、一言濡れた声で名を呼ぶ。

「へい、ちょ…」

羞恥を押し殺した目が閉じられ、その変わりに濡れた唇が近づく。
互いの前髪が触れ、そして瞬間、二人の吐息が混じりあう。
しかしそれはほんの一瞬ですぐに離れてしまった温もりに、リヴァイはわずかに眉を寄せた。

なまえはこうして自発的な行動を滅多にしない。私生活に置いても、リヴァイの前でも。
それはリヴァイが禁止した為である。「拒絶する」という行為を禁止したため、なまえはいつも素直に黙ってそれらの行為を「受け入れる」だけだった。
それが、今のはなんだ。

「あ…、れ…?」
「……なんだ。」
「えっと…キスの仕方、間違えました…?」

不安そうな顔でこちらを覗き込む。わすかに脅えた色を写した瞳に、リヴァイはまた顔を顰める。
それを見てなまえは、きゅっと、口元を引き結ぶ。
リヴァイは手を伸ばし、鎖された口元をほぐす様にゆっくりと頬を撫でる。

「キスは、触れるだけのものではないと知っているだろう?」
「…あ…、えっと、」
「もうひとつのキスも、なまえなら出来るだろう?」

不安を写した瞳はすぐさま羞恥に揺れるものに変わった。それに気をよくし、そして今度はリヴァイの方から顔を寄せた。
控えめに掴まれたシャツは皺になってしまうほど強く握られ、わずかにその手も震えている。
意を決したように顔を上げ、そして潤んだ瞳を伏せながら、開かれた唇を擦り寄わせた。
ぎこちなく動く舌を受け入れる。緊張に震えるなまえを宥めるように何度も頬を撫で後ろの髪を梳く。口端から洩れでる吐息はいつもより熱く、色気を含ませている。
その見慣れない痴態を晒すなまえに興奮して、差し入れられた舌に甘噛みという悪戯を仕掛ける。
それに驚いて舌もろとも離れようとするなまえを抑え込み、一瞬離れた唇をもう一度引き寄せてそして舌を差し込む。

「ぅ、ん……はぁ、あ…」
「なまえ?どうした?」
「あっ…ふ、…」

いつもなら、その場で硬直している身体がわずかに動く。引け腰になろうものなら強引に引き寄せるのだが今日は違うらしい。
わずかに腰を揺らし、そしてなまえの方からも舌を戯れさせてきた。
人形のようにただ受け入れるだけだったなまえが、可愛らしく強請ってくるのだ。その光景に、リヴァイは確かに興奮した。

長い口付けの後、ようやく二人の距離が離れた。唾液が糸を引き、呼吸もわずかに乱れているなまえの頬を撫で、赤く染まる顔を隠そうとする髪をかき分ける。

「兵長…うれしい、ですか?」

その問いに、疑問を持つ。

「…どういう風の吹き回しだ?誰に言われた?」
「……ハンジ分隊長が、」

ハンジが助言したと、なまえは言った。

「兵長の喜ぶ顔が見たかったら、私から触れてみろって…」
「なぜ、俺の喜ぶ顔が見たかったんだ?」
「最近なんだか、私といるとお疲れの様子だったので…なにか、力になれればと思ったんですが、迷惑でしたか…?」

何をしてもただ受け入れるだけのなまえがつまらないと、そう感じていたのは確かだ。なまえに触れている時もわずかに上の空だった。
それをなまえは少しずれてはいるが、感じ取っていたのだろう。行為をする時にも疲れていると、ほんの少し解釈は間違っているが。

それに小さく自嘲する。そして同時に嬉しくも思う。
力になれればいいと、そう思っていてくれるなまえを「つまらない」と形容してしまったことを後悔する。
自分がどんなに汚れよう苦痛を受けようと、リヴァイの行為を素直に受け入れるなまえを、愛しく思う。

「ハンジもたまには役に立つ…」
「…兵長?」
「いや、なんでもない。」

汚れるのは厭わないのか、と聞けば間髪入れずに答える。
ケロリとした顔で、私の身体は全身兵長に染められたので今更それを拒否する必要はない、と。
それが男を虜にする台詞だとなまえは知らずに言っているのだろう。無意識にそんな事を平気で言えるなまえに、リヴァイは小さく笑った。
その表情を見て、なまえの目がわずかに細められた。目じりが下がりその目が喜びを写す。

「そうか…俺を喜ばせたいのか。」
「はい…でも、よかったです。喜んでいただけたようで。」
「ああ…でも、そうだな…まだ、足りないな。」

ドロリと、黒い思考が混じりだす。
どんなに汚れたと形容してもなまえはいつまでたっても純白なままだ。ならば、それを汚したいと言うのもリヴァイの本能だ。
未だ無垢なまえをもっと汚したくなる。本能には逆らわない、なまえの事に置いては歯止めが利かせない。
もっと、もっと。
今度は身体だけでなく、その思考も汚してやろう。

シャツを握る手を取る。その手を自身の首の後ろに回して、顔を近づける。

「シャツを握るのはなしだ、皺になるからな…だから手は首にまわせ。」
「あ、…の…」
「大丈夫だ。怖くない。俺の言った通りにすれば、大丈夫だ。」

知識がないから、いつまでたっても受け入れるだけなのだとしたら。
求める事を教え込めば、ここ最近考えていた事は一気に解決する。
なまえはリヴァイの言葉には逆らわない。ならば、あとは簡単だ。

「目を閉じて、キスをしろ…なまえ」
「…ん、」

キスをされながら、口端がわずかに緩む。
教え込んで躾をして、調教していけば、今度はなまえ自ら、触れて求めて快感に身を捩じらせるようになるだろう。そうなれば、ただの人形ではなく、リヴァイだけを求める女が出来上がるはずだ。

さて、どうしてやろう。
幸いにもなまえは無意識に男を喜ばせる方法がわかるらしい。
まずはキスの仕方から教え込んでやろう。

服の中に手を差し入れ、背骨をなぞるとびくりと震える。
それと同時に首に回された腕に力が入り、無意識に腰を浮かせ強く引き寄せられる形になった。そのせいで先ほどよりも互いの身体はさらに密着し、差し込まれた舌も深く口内を荒らす。
そうだ、その調子だ、なまえ。

ご褒美だとでも言うように頬を撫で、なまえのキスに答える。
今日の夜はとびきり長くなりそうだと、リヴァイは心の中でほくそ笑んだ。




bkm
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