08
私の旦那さんは今も昔も中々、うん、絶倫って言うんだと思う。さわやかな朝に何を言っているんだと怒られるかもしれないが、起きた途端に襲い掛かってくるこの気怠さを思えばそう実感してしまうのも無理はないと思う。
起き上がるのも億劫で指を動かすのも困難なこのだるさは明らかに、昨晩の後遺症だ。
高校を卒業すると同時に結婚して共に住み始めた、所謂新婚というものだ。そして今までの距離を埋めるかのように毎週休みの日は必ず事に及ぶ。こちらが生理中だろうとなんだろうとお構いなしに毎週毎度、そして一晩で行われる回数はきっと常人の人よりもはるかに回数が多いと思う。もしかしたら前世よりも絶倫度が上がっているんじゃないかと、教師の癖にその底なしの体力はなんなんだと、毎晩恨めしくなってしまう。
私なんてもう兵士だったあのころとは違いただの一般人、それもかなりひ弱な部類に入ると言うのに、彼は生前の頃のまま筋肉はあるし身体もそこらの男よりもよっぽど出来ている。
この人は本当に、生まれ変わってもずっとそのままだったんだな、と隣で眠る彼に口づける。
回数が多かろうと絶倫だろうと、行為中の優しい手つきはあの頃のまま、熱く濡れる瞳で私を見つめる、その熱情も夢の中と何一つ変わらなかった。

そして思う。
彼が、リヴァイは変わっていなくても、私は変わってしまったのだろうかと。
私を好きになった頃のまま、私は私として生きてきてこれただろうか。



「………、」
「あ…おはようございます、リヴァイさん…」

微睡む意識を引き上げるように、柔らかな声が語りかける。
未だ閉じそうになる瞼を無理矢理こじ開けると、隣に微笑む愛しい女の姿。
俯せになりながら上体だけ起こして、疲れをありありと残しながらも頬を緩めて小さく笑う。カーテンから差し込む朝日が白い肌を照らして白いシーツも相俟って、その眩しさに目を細める。
一枚絵のようなその光景に手を伸ばし、彼女の頬へ触れると伝わってくる体温がこれは絵でも夢でも幻でもないと教えてくれる。そしてゆっくりと引き寄せる仕草をすれば、なまえ自身も顔を寄せ言葉もなく、二人の唇が合わさった。
ほんの一瞬でその温もりは離れ、そして何度も頬を撫でると気持ちよさげに目を細めるなまえ。

「体は平気か?」
「…ん、大丈夫です…」

そう言いながらも、起き上がることすら困難なように見受けられる。肘だけで上半身を支えるのは辛いだろうと、両手を脇の下へ入れてこちらの方へ引き寄せる。抵抗する力すら残っていないらしく小さな悲鳴を上げるだけでリヴァイの手にされるがままの状態のなまえの身体は容易に寝そべる上体の上にしなだれかかるように置かれた。
当然昨夜のまま、何も身に着けていない二人の肌から直にお互いの体温を感じ、顔を赤くする。しかしそこから退く事も出来ず、ならばせめて赤い顔だけは見られたくないと固い胸板へと顔を埋める。
そんな愛らしい仕草に寝起きの頭は徐々に覚醒し、甘えるように擦り寄る頭を優しく撫でる。

「本当は動けないんだろう?嘘つくな。」
「ん…ごめんなさい…」
「悪かったな、お前相手だとどうにも加減ができねぇ…」
「私が体力ないのも原因だと思いますけど…」

ふぅ、と溜息をついて顔をあげてヘラリと笑う。
女に鍛えている男の体力に付き合わせているのはこちらなのだからなまえが気にする必要はない。そう言えば小さく笑って一度頷く。
柔らかい身体を抱きしめながら無理をさせた身体を労わるように背中から腰にかけて優しく撫でる。その感触に小さく反応して視線だけで抗議を訴えてくるが、羞恥に染まる瞳では大した効果は得られない。
枕元に置かれた時計に視線を移せば時計の短針は10を過ぎた所にある。普段ならば既に仕事をしている時間だ。しかし今日は休日、その為昨晩は一週間で溜まった全てを吐きだす様に長い夜を過ごした訳だが。

「そろそろ起きるか。」
「はい…あ、朝ごはん…」
「なまえは寝てろ。今日は俺が作る。」
「だ、ダメです!私なら大丈夫ですから…っ、」

手をついてなんとか起き上がろうとするも、途端に肘から力が抜けてそのままへたり込む。ほら見ろ、と倒れたなまえの頭を軽く撫でながらリヴァイは上体を起こす。
床に脱ぎ捨てられた衣服を素早く身に着け、ベッドから未だ何か言いたげに見上げてくる。

「ご飯作るのは私の仕事なのに…」
「今日くらいはいいだろ。そんな事で拗ねるな。」
「私がリヴァイさんにしてあげられる唯一の仕事取らないでください…」

枕に顔を埋めて拗ねる彼女の頬を撫でながら、思う。

「なまえは変わらないな…」
「…え?」
「頑固で融通が利かなくて、俺に仕事をさせようとしない所は昔と一緒だ…たまには、俺を頼れ。そのためにいるんだからな。」

なんでも自分でしようとする所も、前世と一緒だ。そのせいで悪夢を見てもひとりで抱えて相談すら、話しかける事すらも、三年間してこなかった事を実はいまだに根に持っていたりする。もっと早くなまえがリヴァイを頼っていれば、もっと早く思いを通わせることが出来ていれば、こんなに悔しい思いをせずに済んだのだろうと。
自分を犠牲にしてまでリヴァイに尽くそうとするのは妻の鏡であるが、そんな事はリヴァイ自身は望んでいないのだと、いつになったら気づくのだろう。

呆けたなまえに一度口づける。最後に一度頬を撫で、そして朝食を作るべく部屋を出る。

「……っ、」

残されたなまえの瞳から涙が滲む。ぼんやりと心につかえていたものが、たった一瞬で解決してしまった。
何も変わらない二人。変わったのは二人を取り巻く世界だけ。
それを嬉しく思いながらもリヴァイの言葉に甘えて気怠い身体を布団の中へ埋める。
幸せにまどろむなまえの元に、トーストが焼きあがる香ばしい匂いと、コーヒーの匂いが漂ってくるまであと少し。




bkm
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