06
「えれんおにーちゃん!!かくご!!!」
「うおっと…ハハ、お前大きくなったな!」

賑わしい声がリビングから聞こえてくる。
玄関まで出迎えてくれたなまえに何事だと聞くと、クスリと笑って聞いた通りだと答える。
少し重いカバンを手渡しスリッパに履き替えてほの暗い廊下を歩く。
リビングと廊下を隔てる扉を開けると、なんとなく予想していた光景が広がっていた。

「男の急所はここだから、ここを攻撃すると一撃。」
「ミカサ!そんな事教えたらエレンが…!!」
「とりゃ!!」
「ぅぐ…!!!!」

記憶の中よりもわずかに大人びた懐かしい顔ぶれが並んでいた。
そしてその騒ぎの中、誰よりも早く父の帰宅に気付いた息子が満面の笑みでこちらに走り寄ってくる。

「おとーさん!おかえりなさい!!」
「あぁ…ただいま。」

それにつられるように三つの目がリヴァイの姿を捕えた。居住いをすぐさま正し、わずかに緊張を含んだ固い声音で発言した。

「お、お邪魔してます…先生。」
「あぁ…久しぶりだな。」

かつての教え子だった、エレンとミカサとアルミンがいた。



「偶然ね、買い物帰りに会ったの。それで今から三人でご飯に行くって話だったんだけど、その子がエレン君離そうとしなくって…じゃぁ、うちでご飯食べたらって話になったの。ほら、一応リヴァイさんの教え子だし、私の後輩でもあるんだから気兼ねしなくてもいいしね。」
「そういうことか…」

確かにリヴァイやなまえにとっては三人はずっと昔から知っていて、それはもう前世の記憶から知っているが三人はあの夢を見た事はないらしい。故に、確かに学生時代は仲良くしてくれた先輩や教師の自宅で、しかも小さい子供がいる家で夕食を一緒にするというのは、少しながら違和感を覚えるのではないのだろうか、とリヴァイは考える。
しかし三人の本質は生まれ変わっても変わる事なく、エレンは楽しそうに息子と遊んでいたし、ミカサはそんな事気にする性格ではない。唯一アルミンだけが気まずそうにしていたが時間が経てば馴染んだようで今ではなまえの手伝いをしてちょこまかとキッチンとリビングを行ったり来たりしていた。
リヴァイはと言えばとりあえず私服に着替え、夕飯ができるまで食卓の椅子で頬杖をついて、リビングのソファで楽しそうにエレンとミカサと戯れる息子を観察していた。いつもならばその役目は父の仕事なのだが、今日も疲れて帰ったためエレン達がやってきたのはありがたいと思う。

「はい、リヴァイさん。もうすぐ夕飯できるから、もうちょっと待っててくださいね。」
「あぁ、ありがとう…なまえ。」

ガラスのコップに並々注がれた冷たい麦茶を受け取る。カラン、と氷が音を立てて崩れ落ちた。それを一口のんで、ふう、と一息つく。
夕食のいい香りが嗅覚を刺激して止まない。今日は唐揚げだろうか。エレンやミカサあたりはよく食べるだろうから、食卓で戦争が起こらなければいいが、なまえの事だ。きっと大量に作っているのだろう。なんせ、こんな風に同年代の人間とこうして食事をするのはもう何年振りなのだろう。なまえもこの状況に珍しくはしゃいでいるのだろ、キッチンに立っているなまえを見ていればすぐにわかった。
妻として、母として、若いうちからそれを強いてしまったせいであまり同年代の友人達とこんな風に接する機会を奪ってしまったのはリヴァイだ。その事をぼんやりと考え、ならば、たまにはこうして家で夕飯に招待するのもいいかもしれないと考える。友人達と外食に行ってもいいとリヴァイが言ったとしても、家族が子供がと言い出すに決まっている。
今度、ハンジやエルヴィンでも招こうか。きっとハンジあたりは喜んで息子の相手をしてくれるに違いない。想像すれば容易にその場面が思い浮かび、小さく笑った。

「えれんおにーちゃんとみかさおねーちゃんは、どっちがつよいの?」
「そりゃぁ決まってんだろ!もちろん、」
「わたし。だから、私がエレンを守るの。」
「みかさおねーちゃん、かっこいい!!」

男の面子を丸っと潰されたらしいエレンが顔を赤くしてミカサに食いかかる。しかしミカサは涼しい顔をして当然だ、何も間違ったことは言っていないという風にそれを軽く流す。
その二人に割って入るように、じゃあ、と大きな声をあげて手を叩く。

「うでずもうできめよう!!しょうぶのせかいはこーへーなんだよ!!」
「おう、そうだな!こいよ、ミカサ!!」
「…はぁ」

ぱん、と手を叩いて満面の笑みで息子がそう提案すれば、エレンがそれに対して自身満々に腕まくりをし、机の上に肘を立て準備満々だとでもいうように鼻を鳴らした。
その返事に小さく息をついて、ミカサも同じ体制を取った。
二人合わされた拳の上に小さな子供の手が置かれ、そして、拙い英語で勝負開始の合図を宣言する。

「れでぃーごー!」

そして、一瞬。
まさしく瞬殺と言うに相応しい。

「……やっぱり、ミカサかっこいいい!!」
「…当然。」

幼い子供に全貌の眼差しで見つめられ、満更でもないように小さく照れる。
頬を赤くしていればミカサは本当にただの可愛らしい女の子だが、しかしリヴァイの目には、つい先ほど男と腕相撲をして一秒と立たずに机の上に叩き付けた女が可愛らしいとは到底思えなかった。相変わらず、前世も今も、卒業後も、この女は変わらないのか、と妙に感心した。

「おとーさん。」
「なんだ?」
「おとーさんとおかーさんは、どっちがつよいの?」
「もちろん、お父さんだよ。私なんか適いっこないよ。」
「当たり前だろ。」

その問いにキッチンからサラダを食卓に並べるなまえが代わりに答える。それに続くようにリヴァイも言った。
その二人の姿に、また眼をキラキラさせ、そしてもう一言問うた。

「じゃあ、おとーさんがおかーさんをまもるの?」

それに、なまえとリヴァイは一度目を合わせる。
そしてゆっくりと二人の返答を待つ息子に笑いかける。リヴァイが手を伸ばし、頭をゆっくり撫で、そしてもう一度小さく笑う。
笑いながら、言う。

「当たり前だろ。」
「はい。」

それを聞いて、そして今度は花咲くように笑った。



「じゃあ、おとーさんとみかさおねーちゃんはどっちがつよいの?」

ピシ、と空気が固まった。
特になまえは震え手に持っていた皿を音を鳴らしていた。キッチンにいたアルミンは目を大きく開かせ、そしてエレンはアホみたいなキョトンとした顔でリヴァイとミカサを見比べていた。ミカサとリヴァイは表情は変えなかったが、互いを一度ちらりと見た。
その空気をまだ感じ取ることはできないのが、またパンと手を鳴らし頬を紅潮させながら、先ほどと同じ言葉を言う。

「わかんないなら、うでずもう!!」
「えっと…ほら、もうご飯だし!」
「?だって、みかさおねーちゃんはすぐおわったよ?」

なんとか止めようとするなまえに息子は小さく首を傾ける。
この子が言い出したら聞かない頑固な子供だと、リヴァイは知っている。一度溜息をつき、ゆらりと椅子から立ち上がるとミカサの正面に座り肘をつく。
それを見てなまえは肩をわずかに震わせ、それを見た息子は目を輝かせリヴァイとミカサの元へ走り寄る。
無言で目の前に座ったリヴァイに、ミカサもまた無言で同じようにまた肘をつく。意気揚々と二人の拳の上に手を合わせる息子を一度みて、もう一度ミカサを正面から睨み付ける。

「悪いが、息子の前なんでな…手加減しねぇぞ。」
「別に…こっちも手を抜くつもりはない…」
「じゃあいくよー!」

拙い英語で、開始の合図を発する。
いつの間にかリビングではエレンと、アルミンとなまえもキッチンから離れ、その勝負の行方を見守っていた。




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