03
「風呂に入る。」
「はい。じゃあタオルとか置いておきますね。」
「ああ…よし、いくぞ。」
「あい!」

少しでもなまえの負担を減らせればと、せめて風呂に入れるのくらいはと思い、幼い頃から出来る限り息子の風呂は父と一緒に入っていた。
いまではそれが当たり前となり、息子も嬉しそうに父の後について脱衣所に向かう。
もう何年も続く、リヴァイ家の日常だった。



「ほら、万歳しろ。」
「あい!…っぷはぁ」
「よし、行っていいぞ。すべってこけるなよ。」
「うん!パパもはやくね!」
「ああ…」

脱衣所に着けば意気揚々とぎこちない手つきでズボンを脱ぎ始める。せっかちな所はなまえに似たな、といつも思いながら膝を付き息子の脱衣を手伝う。
毎回万歳して服を脱がされるのか好きらしく、毎回ケラケラ笑っている。
全てが脱ぎ終わると走り出さん勢いで駆けていくため毎回同じ注意を言ってやれば、毎回同じようにリヴァイを急かす。それに緩く笑いながら、リヴァイもテキパキと服を脱ぐ。
洗濯機の隣にある籠にリヴァイと先ほど脱がせた息子の服をまとめて投げ込むと、棚からタオルを二枚掴んで浴室へ向かう。

浴室へ入るといつも先に風呂椅子にちょこんと座り必ず待っている。その姿がなんとも愛らしく自然と頬が緩む。
手に持っていたタオルを浴槽の淵に置き、手おけに人肌程のぬるま湯を蛇口から入れ、そして背を向けて座る息子にかけていく。
リヴァイの言う事は必ず聞く、ものわかりのいい子供に育った。風呂に入る際、必ず先に身体に湯をかけ汚れを落としてから入れという父親の言いつけを破ったことは一度もない。いつも必ずリヴァイが来るまでこうして椅子に座って待っている。手のかからない子供だと、きっとなまえに似たんだなと、リヴァイはまた考える。

「先に浸かるか?それとも頭洗うか?」
「んーっと…あたま!」
「わかった。じゃあ目、閉じてろ。」

それを合図に小さな両手で顔を覆う仕草をする。それを確認して頭のてっぺんからゆっくりと湯をかけてやる。
浴室の隅に置いてあるシャンプーボトルを数回押し手に取ると、リヴァイの片手程しかない小さな頭皮を丁寧に洗う。
身体が冷えてしまわないように手早く、しかし傷つけてしまわないように丁寧に洗う事を心がける。爪を立てずに指の腹を使い優しく髪を洗ってやる。

「お湯かけるぞ。息とめてろ。」
「ん!」

その言葉を聞いて大きく息を吸って、そして止める。
シャワーを捻り熱くない程度の温度を確かめてから洗い残しがないように頭皮を撫でながら泡を落としていく。
男の子ということもあって髪の量も然程多くなく、小さい子供の頭はすぐに洗い終わる。シャワーを止めれば、っぷは、と息を吐きそして吸う。
浴室の淵に置いてあったタオルを一枚とり顔を拭いてやると、ずっと閉じていた目をようやく開く。まぶしいのか何度か瞬きをして、そして笑う。

「よし、入れ。」
「ぱぱもー!」
「わかったわかった。ちょっと待ってろ。」

息子に急かされ、リヴァイも身体に湯をかけて軽く汚れを落とす。
そして先に浴室に入ったリヴァイに続くように、息子も意気揚々と足を湯に浸した。



「さて、今日はなにしたんだ?」

リヴァイと入るのが楽しみな理由が、これだった。
その日あった出来事をこうして風呂場で毎日父に語るのが、夜の楽しみらしいと、なまえはいつだったか苦笑いしながら教えてくれた。昼間ずっと一緒にいる母よりも、夜に帰ってくる父の方が楽しみなのがなまえにとっては複雑らしいが、それを聞いた時リヴァイは素直に嬉しかった。
小さい脳みそで必死に今日の一日を思い出して教えてくれる。自分の知らない時間、世話をかけてしまっているなまえの様子、楽しそうな息子の笑顔、その全てがこの狭い浴室の中で語られる。この時間を共有する者が、自分と同じようにこの時間を好きだと言ってくれて、とても嬉しかったのだ。

「ママのおそうじてつだったの!」
「そうか。なにを手伝ったんだ?」
「ママがぶおーってしてたから、だからボクがコロコロってソファにしてたの!」

擬音で語られる言葉に、なんとなくだが理解する。
つまりなまえが掃除機をかけて、息子がソファをコロコロをかけていたと、多分そういう事なのだろう。
偉かったな、と言いながら濡れた髪を撫でるとわずかに誇らしげに胸を張って照れくさそうに笑う。
顔は完全にリヴァイに似たが、表情や行動はほとんどなまえに似た、愛らしく可愛らしい息子。

浴室に背を預けるリヴァイの足の間にちょこんと座り、そして今日一日の出来事を語る。
逆上せないように一度風呂から上げて身体を洗ってやる。その間も語る口は止まらずに、事細かにそれを離してくる。
母を手伝ったなら褒めてやり、母の失敗を見たと報告してきたらそれをフォローできるようになれと教える。
母が困っていたら手伝ってやれと言えば、息子は元気いっぱいに頷くのだ。

「俺がいない間、なまえの事はお前に任せるからな。」
「うん!おかあさんはボクがまもるから!パパはあんしんして、おしごとしててね!」
「ああ…頼もしいな。」

拳を作り、それをお互いにコツンとつける。
誇らしそうな顔を見て、これからの成長が楽しみだと、リヴァイはそっと目を閉じる。




bkm
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