「お前、ボーダー向いてると思うよ」

放課後の教室、部活に勤しんでいる友達を待っているときにかけられた言葉。ネットサーフィンをしていたスマートフォンを閉じて声のした方に目を向けると、そこには同じクラスの米屋がいた。
私と米屋は特別親しいわけではない。至って普通の、ただのクラスメイトだ。お互い関わる友達が違うのであまり話したこともない。朝学校に来たときに、おはようと言わないような仲。だからいきなり話しかけられたことに少しびっくりした。

「前、座るな」

そう言って米屋は私が座っていた前の席に座った。別段断る理由もないから、私は肯定の意味の無言を貫く。米屋も返事が欲しかったわけではないようで、なにも言われることはなかった。

「で、さっきの話だけど。ボーダー向いてると思う」
「……それってもしかして私のこと勧誘してるの?」

私と米屋が通っている高校は、ボーダーと連携していて数多くのボーダー隊員が通学している。米屋しかり、三輪くんしかりだ。だから彼は私を勧誘しているのかと思ったが、米屋は首を横に振った。どうやらそういうわけではないらしい。

「お前にはボーダー入ってほしくねぇよ」
「じゃあ一体なに」
「ただなんとなくそう思っただけ。お前と戦ったら強そうだなーって」

そんな理由で話しかけられたのか、と少し衝撃を受けた。へぇ、そうなんだと当たり障りなく返事しておく。米屋と初めてちゃんと関わって気付いたが、私は彼がどことなく苦手かもしれない。
米屋はそんな私の心中を知ってか知らずか、最近発売した炭酸水を飲んでいる。目の前で彼の喉仏が動く。

「私は米屋には勝てないと思うよ」
「なんで?」
「だって強いじゃん。結構前に見たよ、米屋が近界民と戦ってるところ」

米屋は私の言葉を聞いてポカンとした顔をした。こんな顔もするんだと頭の隅っこで考えていると、そっか、と目を伏せ口に手を当てて彼が呟く。それから私の方に視線を向けて、口を開いた。しかし、そこから言葉が発される前に教室の扉が音を立てて開く。私は米屋から目を離してそっちを見た。

「陽介、行くぞ」

そこにいたのは三輪くんだった。話しかけられた米屋は、ため息を吐きながら頭を掻いて立ち上がる。それから私を見た。

「じゃ、行くわ」
「うん。バイバイ」

教室の扉が再び閉められるまで視線で二人を見送る。米屋はさっき何を言おうとしたのだろうか。少しだけそれが気になった。

1411219 酸性



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