吐いた息が白くなる季節になった。寒さというものは身体だけでなく心も凍らせるようで、ひどく身震いした。ああ、寒い。そんな感想を口に出してみても変わらない。ただただ寒い。そんな季節。
「早く帰ろうぜ。ダルいし」
そう言って私の隣で笑うのはベルフェゴール。どこかの国の王子様。しかしそんな名称とはだいぶかけ離れている人格の人間だ。彼はポケットに手を突っ込んで、私と同じように寒い寒いと文句を言っている。澄んだ空気の中で、彼の髪の毛に引っ掛かっている王冠がキラリと光った。
「そうだね。早く帰って温かいお風呂に入りたいな」
ガチャリ。私の相棒が音を立てた。これから私たちは、とある小さなマフィアのアジトに潜入する。そこでたくさんの人を殺すのだ。彼らの罪状は、九代目に逆らってボンゴレのシマを荒らしたというもの。その後始末がヴァリアーに回ってきたのだ。
「ベル、なるべく綺麗に殺してね」
「それじゃ殺した気になんねーよ」
ベルは任務で派手に暴れることが多い。特に大人数を相手取るときは手が付けられない。任務のたびに死体処理班に迷惑をかけたり、隊服を返り血で汚すのはそろそろ止めてほしいと思う。
「ほら、もう行くぜ。時間だ」
「うん」
息を整えて相棒を見る。むかしから共に戦ってきた拳銃。私の唯一無二の相棒だ。黒光りするそれはとても綺麗で、何年も一緒にいるはずなのにいつも思わず見惚れてしまう。
「さん、に、いち、で行くよ」
「うしし、了解」
吐いた息が白い。ああ、寒い。温かくなるまでに、私は誰かの命をどれだけ奪うのだろうか。
141128 酸性