「ははぁ、今日は飲みすぎたかなー」
「あんなに飲むやつがあるかよ」

嶋田とか滝ノ上とか、町内会のみんなの休みが合致して、久しぶりに居酒屋で飲むことになった。ちょくちょく一人一人とは顔を合わせてはいるものの、みんな揃って、ということは最近ない。社会人というものはそれなりに忙しいのだ。だから一堂に会したことが嬉しくて、つい飲みすぎてしまった。ビールに始まり、焼酎やらなにやらちゃんぽんしたせいか、頭がグルングルンする。見事な酔っ払いの出来上がりだ。
居酒屋の帰り、みんなと別れて少し下り坂になっている道を繋心と歩く。

「けーしーん。お盆はいいねー。みんな集まれるねー」
「そうだな」
「みんな集まるのいいねー。楽しいねー」
「そうだな」
「次はいつかなー。お正月かなー。遠いねぇ」
「そうだな」

繋心は同じ言葉しか言わない。酔っ払いの扱いよよく心得ている。酔っ払いというよりは、酔った私の扱いを、だろうか。冷静なのかそうではないのか、よく分からない頭でそう思った。

「けーしんくん、けーしんくん。私から離れてっちゃダメだからねー」
「なに当たり前のこと言ってんだよ。こんな酔っ払い放っておけるか」
「そうじゃない」

あ、冷静じゃない。そう感じた。色んな言葉が口から出てきそうになる。すごく危ない状態だ。

「そうじゃないよ」

私と繋心は付き合っていない。ただの幼馴染だ。友達というより、くされ縁。お互いに心地いい関係を維持していた。正確には、繋心にとって、だけれど。それなのに、口から出ちゃいけない言葉が出そうになる。私が二十数年我慢してきた言葉、心の奥の奥に押し込んできた言葉。ダメだ、いけない。
口を開いて何か言いたげにしている繋心より先に言葉を発する。いま彼に何か言わせてはいけない。

「けーしん」
「……なんだよ」
「またみんなで飲もうねぇ」

みんなで、を強調してヘラヘラ笑って私は言う。彼はまだ何か言いたげだったけれど、結局何も追及してこなかった。

「……転ぶなよ」
「うん、ありがとうねー」

下り坂は、まだまだ長い。

141114 酸性



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