放課後、私は教室で机に突っ伏してボーッとしていた。特になにか用事があってここにいるわけではない。いや、強いていうなら彼氏を待っている。そう言っていいのか分からないけれど。
最近、彼氏と上手くいっていない。お互いなぜか何かにイライラしていて、どうしても喧嘩してしまうのだ。このままの流れだと、別れることになるのかな。教室に差し込む西日に目を細めながら、そんなことを思った。
私はどうしたらいいか分からない。今は彼氏とは距離を置いている。向こうが、そうしてくれと頼んできたからだ。ああ、寂しい。彼の、あの温もりがまた欲しい。でも、彼の気持ちが分からない。どうしたいのか、どうしてほしいのかが分からない。だからどうしようもないのだ。
そんなことを悶々と考えながら机でぐずっていると、ガラガラと教室のドアが開いた。
「何してんの、お前」
そこにいたのは青峰だった。彼が教室に顔を出すなんて珍しい。
「そっちこそ、どうしたの?」
「忘れ物取りに来た」
忘れ物、とは恐らくグラビア雑誌系だろうなぁ。よくそんなものを学校に持って来れる。そのメンタルの強さにはいつも驚かされちゃうよ。
心の中で苦笑していると、頭の中に悪い考えが浮かんだ。
「ねぇ、青峰」
「あ?」
「キス……してくれない?」
我ながら、なんてひどい考えだろう。彼氏がいるのに、他の男にこんなことを持ちかけるなんて。青峰は案の定驚いた顔をした後、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて、肯定の返事をした。それから私の席の前まで来て、私を見下ろす。
「どこにしてほしい?」
「……くちびるがいい」
青峰が私の頬に手を添えた。壊れ物を扱うような手つきに驚く。彼も、こんな風にすることができるんだ。そして、ゆっくりと青峰の顔が近付いてくる。私は目を閉じた。
「このビッチが」
そう言って、青峰は私にキスをした。とても、とても優しいキスだった。これで何かが変わるのだろうか。
140816 酸性