「卒業おめでとう」

教室でそう言った担任の先生の声がやけに遠く聞こえた気がした。

今日、私たちはこの青葉城西高校から卒業する。三年間、あっという間だった。目まぐるしい速度で過ぎて行った青春に、早々に別れを告げられるほど私は淡白じゃない。
部活に打ち込んで、勉強を頑張って、友達と笑い合った。私の全部が詰まった、片割れみたいな存在。それが今日、これから切り離されるのだ。はいそうですか、なんて易々とは言えない。
先生が教卓からなにか言ってるけれど、全部無視して左側を向いて、窓の外の誰もいない校庭を見やる。空は寒々としていて、なんだか泣きたくなった。


つつがなく卒業式は終わった。やけにあっさりとしていたそれに、私は泣くことはなかった。まだ卒業した実感がないからだろうか。教室でクラス関係なくわいわいと騒ぎながら、みんなは写真を撮ったり卒業アルバムになにか書いたりしている。私はなんだかそういう気分になれなくて、やっぱり寒々とした校庭をボケっと見つめていた。

「どうしたんだよ」
「あ……、岩泉」

そんな私に話しかけてきたのは同じクラスの岩泉だった。彼とは三年間クラスが同じだったから、そこそこ仲がいい。ちらりと彼の後ろを見た。よかった、今日は及川はいないみたいだ。

「及川なら女子に捕まってる」
「…よく私の考えてること分かったね」
「お前あいつ苦手だろ」
「うーん、まぁ…」

岩泉はちょうど空いている私の前の席にガタガタと座ると苦笑した。見抜かれてたことが少し恥ずかしい。

「なにしてたんだよ」
「なにも。ボーッとしてた」
「…そうか」

岩泉はそれっきりなにも言わなくなった。私と同じように寒々とした校庭を見つめている。私と彼の間だけ、静かな空気が流れていた。

岩泉とは大学が別々になる。だからもう会うこともなくなるのだろう。寂しくなるな、なんて、少し思った。

「この後予定はあるのか?」
「ううん、なにもないよ」
「なら、飯でも食いに行かねぇか?」
「そっちこそ、バレー部の人たちと予定あるんじゃないの?」
「あるけど、あいつらとはいつでも会えるから」

なにそれ。それってまるで私と一緒にいたいみたいな言い方。勘違いしそうになる。

「お前、県外の大学行くだろ。あんまり会えなくなるからな。なんでも好きなもの、奢ってやるよ」

多分、なんの特別な感情もなく言っているのだろう。岩泉のただの優しさ。だから私も、彼に特別な感情を持たずに言うのだ。

「それはどーも」


160804 魔女



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