初めて陽介に対して嘘を吐いた。今まで、出会ってから一度も吐いたことがなかったのに。
幼い頃から両親と不仲だった自分は、嘘ばかり吐いて生きてきた。両親の前では嘘の自分を演じ、また友達の前でも違う嘘の自分を演じていた。私にとって嘘を吐くことは、生きていくために息をすることと同じだった。けれど、それは陽介に出会って変わったのだ。近界民に襲われたとき両親が殺され、あわや自分もここまでか、と死を覚悟したとき彼に助けられたのだ。神様かと思った。ただのクラスメイトだった男子が、私の神様になった瞬間だった。
私はこの神様の前では、素直な自分でいたいと思った。初めて、この人にはどんな小さな嘘でも吐きたくないと思ったのだ。それなのに私は嘘を吐いた。結局私は昔のままで、神様と近くにいることで自分が綺麗になったと錯覚していたのだ。なんて愚かだろう。なんて哀れだろう。

「なぁ、顔上げろよ」

だからもう私はここには居られない。この神様の近くにいることは許されない。
そう思って、私は陽介に別れを切り出した。ごめんなさい、別れてください。もう会えません。口に出したその言葉は思った以上に震えていて、自分はもう引き返せないところにいるのだと、自覚するには十二分だった。

「いいから、顔上げろって」

上げられない。顔なんてまともに合わせられない。
陽介の部屋で頭を下げている私は、いまどれだけ滑稽だろうか。

「あなたが、怒ってないわけないでしょ?」
「ああ。怒ってる」
「それなら…」
「でも好きか嫌いかで言えば好きだから」

え。と、顔を上げた瞬間、唇に陽介の唇が押し付けられた。

「陽介、」
「だからもう黙れよ」

そうしてまた口が塞がれた。


150308 魔女



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