「ただいまー」

そう言って開けたマンションのドア。何も返事が返って来ない部屋の暗闇を見て、まだあの人は帰ってないのかと気が付いた。
玄関で適当にヒールを脱いで、ドタドタ歩いて、スーツ姿のまま大きなクッションに沈みこむ。ああ、今日も仕事疲れた。着替えなきゃ。なんて考えが思い浮かぶも、足が重くて動く気になれない。こんなところを光太郎が見たら怒るだろうな、と一人で苦笑した。
光太郎と私は半年前から同棲をしている。高校を卒業してすぐのことだった。卒業式の日、一緒に暮らさないかと言われて、二つ返事で了承した。それからはとんとん拍子に色々決まって、今ではしっかりと同棲している。
光太郎も私も就職組だ。だから今はお互い仕事をしている。恐らく光太郎ももうすぐ帰って来るだろう。

「ただいま」

ああ、帰ってきた。私はまだクッションに沈んだまま。これは怒られる。でも疲れて起き上がれない。結局、私は起き上がるのを諦めて、そのまま返事をした。

「おかえりー」
「なにやっとんの。スーツ、シワになるで」
「んー」
「ほら、おいで」

光太郎は苦笑して、私に手を差し出してきた。私はそれを拒否して、両手を上げる。手じゃなくて光太郎がいい。口で言うのは疲れるから、態度でそう示す。
彼は少し頬を染めながら、しゃがんで私を抱きしめた。光太郎も帰宅してすぐだから、もちろんスーツのままだ。

「光太郎、スーツいいの?」
「ええんよ」
「そうだね。いっか」

光太郎の、シャンプーと汗の匂い。私の落ち着く匂い。仕事の疲れだって吹き飛んでしまうよ。


150105 酸性



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