「スーツ、似合うようになったね」
高校を卒業し、本格的にマフィアの世界に入って早二年。私たちは二十歳になった。高校を卒業した頃は、スーツに着られているような感覚があったのに、今ではみんなすっかり着こなしている。
鏡の前でネクタイを結んでいるツナに向かって冒頭の言葉を言えば、彼は私に向かって鏡越しに苦笑した。
「そうかな。まだ俺はなんか不思議な気分だよ」
「ふぅん」
「それに、そういう言葉は雲雀さんに言ってあげなよ」
「うーん、でもなぁ…」
京子やハルにつられるようにこの世界に入った私だったが、人手が足りないと言われよく草壁さんのお手伝いをしていた。そこから恭弥さんとも関わるようになり、現在に至っている。告白のようななにかは言われたものの、彼も忙しくて会ったり連絡を取ったりしていないので、結局付き合ってるんだか付き合ってないんだかはよく分からない。部下以上恋人未満というところだろうか。
「名前呼びを許してるんだから、そういうことだよ」
ツナはそう言うけど、女性はやっぱり言葉を欲しがるものなのだ。だから私は、恭弥さんがはっきり言わない限りは私たちは恋人じゃないと考えている。
「それにしても豪華だね。振袖ってそういうものなの?」
「そうみたい。私も初めて着たよ」
今日は一月の第二月曜日。つまり成人の日だ。これから成人式が行われる。だからいま私たちは並盛にいる。正確には並盛にあるボンゴレの地下アジトに、だ。京子や山本たちもいま別室で着替えているはずだ。私は一足先に終わったので、これまた準備の終わったツナの部屋にいる。
早くみんなの準備終わらないかなぁ。ソファーに座ってそう呟いた瞬間、ドアが叩かれた。
「どうぞ」
ツナがスマートフォンを見ながら言った。ドアが開く。入ってきたのは恭弥さんだった。
「きょ、恭弥さん……」
「やぁ」
「雲雀さん、日本に来てたんですね」
「まぁね。この子、借りるよ」
ツカツカと部屋に入ってきた恭弥さんは、ツナに全く目もくれず私の腕を掴んで引っ張った。そしてそのまま部屋を出ようとする。
「えっ、ちょっ、ツナ?」
ツナは笑顔でひらひらと手を振るだけで、私たちになにも言わなかった。
恭弥さんは私の腕を引っ張りながらグイグイ進んでいく。慣れない振袖を着ているせいで、足がもつれそうになった。
「あの、恭弥さん、私これから成人式なので用事とか仕事とかは……」
「知ってる」
部屋を出て少し廊下を進んだところで恭弥さんはピタリと足を止めた。そしてこちらに振り向く。
「会場まで僕に送らせてよ」
151219 魔女