「また水色のネイルしてる」

お昼休み、することもないので読書に勤しんでいると、そんな言葉が上から降ってきた。誰が言ったかなんて顔を見たくても分かる。たつきだ。だから私は視線はそのまま本に落としたまま、「別にいいでしょ」と返事をした。
今まで興味のなかった水色にこれだけ惹かれるのには訳があった。だけどそれを、私は誰にも言うことができないし、したくない。きっと、私の話を聞いたら笑うか怪訝に思うかどちらかだろう。だから私はいつも曖昧に話を逸らす。

少し前、夜中にコンビニへ買い物へ行った帰りのこと。私は道路でひとつの化け物に出会った。顔を骨で覆われた、巨大な生物。そんなものが街中を彷徨いていれば当然誰かが気付くはずだけど、ちらほらと歩いている人たちにソレは見えていないようだった。化け物は”見えている私”に気付いたらしく、まっすぐ私めがけて跳んできた。逃げようにも私は足が竦んで動けなくて、きっとここで私の人生は終わってしまうんだろうと絶望した。けれど化け物は唐突に真っ二つになった。そして私の前に一人の男が現れたのだ。片方の頬が骨で覆われている、水浅葱色の髪をした男。悪そうな目つきを隠そうともしない彼は、私を一瞥してどこかへ去って行ってしまった。
それからだ。私が水色を好むようになったのは。

「なぁ」

放課後、直帰しようかそれとも本屋に寄ろうか下駄箱で靴を履き替えながら迷っていると、黒崎に話しかけられた。

「黒崎が私に話しかけてくるなんて珍しいね。どうしたの」
「なんつーか、なぁ。お前、この間夜中出歩いてたろ?」
「そうだけど……」
「なんか見たか?」

その問いかけは、まるで彼を知っているかのような口ぶりだった。黒崎は彼を、または彼の何かを知っているのか。見たよ、と言いかけてから一度口を閉じた。普通に考えて、これは変質者とか、そういった類を見たかどうかという話だ。彼についてじゃない。

「なにも、見てないよ」
「……そっか、分かった。サンキューな」
「力になれなくてごめんね」

彼のことは私だけの秘密だ。この先、きっと誰にも話すことはないだろう。私だけの、恩人。


151210 魔女



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