マニキュアが欲しい。普段マニキュアなんか塗ったことがないくせに、私はふとそんなことを思った。マニキュアが、欲しい。欲求の元を辿れば、なんてことはない。夏が来たからだ。
夏になれば必然的に露出が増える。今まで隠れていた足先も見えるようになるし、腕だって出すようになる。そうなったら、ただの手足ではなんだか味気ない。だから、マニキュアが欲しい。

「へぇ、お前でもそんなこと考えるんだな」

放課後の教室。クラスメイトの黒尾にその旨を話せば、なんだかムカつくような返事が来た。黒尾はカラカラと笑って私の左手を取る。

「俺はこの手がいいんだけどなぁ」
「味気ないでしょう、こんな手。他のみんなはマニキュアしてるよ」
「わっかんないヤツ」

呟くように黒尾はそう言った。そして私の手を離して席を立つ。どこ行くの、と聞けば曖昧な返事を返された。
黒尾はよく分からない人間だ。フラフラしてるようでしてなくて、なにを考えてるのかよく分からない。でも、その黒尾が言うなら、マニキュアはしない方がいいのかもしれない。

140702 酸性



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -