初めてグリムジョーと会ったとき、少し一護と似ているなぁと思った記憶がある。明確に、具体的にどこがどう似ているとは言い表せないのだけれど、しかして二人は似ていると直感でなんとなく思ったのである。
だけれど彼は一護と違って護る戦いはしなかった。彼が司る死の形の通り、ただただ破壊する戦いをした。ただ一介の人間にしかすぎない私は、しかしグリムジョーのそんなところが好きで、そんなところに惚れてしまっていたのだった。
だけど彼は破面で、しかも十刃で。私たちの敵で、そして護廷十三隊の敵だった。だから私はグリムジョーを好きになっても告白することはしなかった。それでいいのだと、自分に思い込ませていたのだ。
藍染惣右介との最後の戦いを終え帰ってきた一護は、私の気持ちに気付いていたらしく、会ってすぐに謝罪された。仕方ないよ。そんな風に私は返した。返すしかなかった。
でも全然仕方なくなんてない。仕方ないなんて思えない。私は今でもやっぱりグリムジョーが好きで、会いたいと焦がれている。一生会えない人外を想い続けている。
一護の謝罪から一年と三ヶ月が経って、私は高校三年生になった。今は学校と予備校に通いつつ、息抜きでアルバイトをしている。グリムジョーとの思い出は徐々に風化しつつあって、もしかしたら彼は私の生み出した妄想だったんじゃないかなんて最近は思っていたりするのだ。そうじゃなければ、私は自分を保てそうになかったから。ほんの少ししか会ったことがなかったのに、いつの間にかグリムジョーは私の中で忘れられないほどの存在となっていた。
予備校からの帰り道、なんとなくそのまま家に帰りたくなくて家の近くの公園に立ち寄った。ベンチに座って背もたれにもたれかかる。なにもかもが嫌になってきた。これが自暴自棄というやつだろうか。
「よォ、久しぶりだな」
だから聞こえた懐かしくて恋しいこの声も、実は幻聴なんじゃないかって思った。だって彼がここにいるはずなんてないのだから。
「シカトすんじゃねぇよ」
今度はもっとはっきりと聞こえた。座ったまま後ろに振り向くと、そこには、
「グリムジョー……」
虚圏で恐らく死んだと一護に言われた彼がいた。嘘でしょう。きっとこれは幻覚だ。私は疲れているんだ。そう思いながら立ち上がってフラフラとグリムジョーの目の前まで歩いた。彼の蒼い双眸が私を見下ろす。恐る恐る服を掴んだ。掴めた。
「…随分立体的な幻覚だぁ」
「んなわけねぇだろ。本人だっつの」
「嘘でしょ? だって一護と戦ったときに…」
「俺が死ぬわけねぇだろ」
ああ、いま私の目の前にいるのは本当に本物のグリムジョーなんだ。そう思うと、嬉しくて涙が止まらない。一生、たとえ死んだって会えないと思っていたのに。
「色々あって、来るの遅くなっちまった」
「いい。全然いい。生きていてくれて、よかった」
抱きついてそう言えば、グリムジョーは少し戸惑ったようだった。それから少しして頭に彼の手が置かれる。わしゃわしゃと乱暴に撫でられた。それが嫌じゃなくって、むしろ嬉しくて、また涙が出たのだった。
151020 魔女